2008年11月13日木曜日

昼の月 夜の太陽



昼の月が
うすく広げた空に突き刺さって
鳥がはるか弧を描く
海には舟が帆を上げる季節
だけど二人して手を振るよ
ナイフを研いで
ランチョンマットの上で旅をする
私たちの恋ははじまったばかり
ラズベリジャムが唇にこびりつき
白い歯がこぼれる
モンシェリ 手をつないで
浜辺を駆けてゆこう


   *


夜の太陽が
暗い森の彼方で燃えている
落ち葉が雨と降るなかを
肩寄せて歩く内緒の小径
そして二人にも秘密がある
焚き火を囲んで
胸をひらいて明けないものを探す
私たちの恋は終わりがない
ウールブランケットにくるまって
やさしさに落ちてゆく
マシェリ 手をはなさないで
このままどこか遠くまで




2008年11月5日水曜日

訪れ



障子に陽がうすら射すと
はらはらと
失われた記憶が降って来る
わたしを見つめる瞳がある
胸のなかをそっと覗くように


わたしはきつね
さびしいきつね
指でなきまねをする


ひとりあそびの束の間に
ひらひらと
重なる影がひとつ揺れる
なぜだか胸が痛くなって
障子を開くと銀杏の落葉(らくよう)


ちょうちょ
ちょうちょ
今にも飛んでゆきそうな


とどまらず漂いゆく光よ
きらきらと
一瞬の命に心は魅せられる
あるかなきかの予兆にも似て
この指先をかすめてゆくのは