2009年2月18日水曜日

私たちは夢の中で



夢の中で私たちは
幾度もくちづけを交わした
あなたの唇はいつも濡れていて
舌を入れると海の味がした
まるで水中深く落ちてゆく
立ち昇る泡が遠く遠く輪を描いて
はるかな岸辺へと


夢の中で私たちは
幾度も別れを繰り返した
つないだ指を一本ずつほどいては
見つめ合って遠ざかった
何も言わないで唇だけで別れた
さよならの形を試すようにしては
ぬくもりを確かめるようにしては


夢の中で私たちは
幾度も抱(いだ)き合った
あなたの鎖骨が光って夜を照らす
まぶしくていつも目を閉じてしまう
目を閉じれば潮騒が聞こえる
耳を澄ませば海流がなだれ込んだ
いつでも海があった


夢の中で私たちは
何度も何度もすれ違った
ある時は他人のふりをして
ある時はどこかで見たような顔をして
振り返りはしなかった
異人のように視線が合っても
淋しさに口をつぐむ事があっても


夢の中で私たちは
名前も顔も知らなかった
声も唇も指先も知らなかった
まだ出会ってさえいなかった
愛という言葉すら知らなかった
私たちは今もなお