2009年10月28日水曜日

メタモルフォーゼの森



どこへ行こうか――
そう問いかける森の
落ち葉は湿って素足に心地よい
(靴は捨ててしまった)


赤や黄や私を包み込むまだ青い
木の葉よ お前の匂いにむせて
ひたむきに傾けるやさしさにむせて
駆けてゆく 髪を唇にからませて


樹木をしならせ吹きすさぶ風は
私から身体(からだ)を奪おうとする
剥がれ落ち また剥がれ落ち
私に何が残るというのだろう


つま先はやがて土を蹴り
指さきはやがて蹄になり
木の葉や蔦や無数の草穂に
からまった髪から耳をぴんと立て
どこへ行こうか――


啼く声は喚(よ)んでいる
森の向こうにはまだ知らないあなたがいる


2009年10月7日水曜日

ときどき僕は



ときどき僕は
草のなかを歩いてみる
さらさらと風が流れてゆく
草穂が膝頭を撫ぜれば
なつかしい思いに満たされる


ときどき僕は
人に話しかけてみる
ときどき
誰とはなしに笑いかけてみる


ときどき
雲間から陽が射せば
忘れていた淋しさに火がつくだろう
理由もなく花を引きむしり
乱した指さきに血がにじんで


ときどき僕は
歌をくちずさんでみる
ときどき
胸にしまった誰かを思ってみる


そして
陽だまりでまるくなって
閉じたまぶたに光が踊るのを見るだろう
虹がかかるのを見るだろう


ときどき僕は
何も考えられなくなる
夕陽が音のない部屋に忍び込めば
辺りにいつかの海が寄せてくる
鴎の声がして 耳の奥で遠く