2015年11月27日金曜日

レティシア 青い花を探して



雨が降っている、と 長い髪を翻して駆けていった


レティシア 君を探して見知らぬ夢をさまよっている
あれは君だったの 夢のなかでそっとくちづけをかわした


誰もいない図書室で本をひらいて
陽だまりに読みふけった異国のものがたり
それとも微睡にふたりで夢に見た青い花だったろうか


空の色を映した花、どこかに咲くその花を
いつか想像してぼくたちは泉を飛び越えた
青い花、君の目のように、雨のように、
雨宿りをした木陰は君の心臓のように静かだったね
レティシア 君は素知らぬふりで目のなかに愛を飼う


かなしい時に君は泣かなくてうれしい時に涙をこぼす
小鳥のようにふるえてふたりは滴るしずくを見つめていた
きれいだと、一瞬時がとまった


あれは青い花だった?レティシア 君の目のなかに咲く


いいえ それはもう出会ったことさえない遠いむかし
遠いおはなし なのに
何遍も何遍も ほらこんなふうに愛しく
わたしのなかにあなたが降りそそぐ
雨のように、わたしを駆け抜けていった


レティシア 君を探して見知らぬ夢をさまよっている
あれは君だったの 夢のなかでそっと耳もとにささやいた


雨が降っている、と ぼくたちの目のなかにいつまでも



2015年10月21日水曜日

水辺の恋



花一輪、波紋を作るみずうみにたゆたう心七月の舟


摘み捨てて赤い花ばかり選んでは水辺の恋の淋しいあそび


白い鳥飛び立つ果てに海がある君の涙をもとめて遠く


いとしくて細い指さきのばしては摘み取る果実青い雨が降る


祭り前夜ツインソウルの見る夢に目覚めるあしたリボンをほどく


夏の終わり帽子を風に翻し君のカルナパルつばさひろげて


星月夜、見つめ返すは遠い窓カレイドスコープを覗くまなざし


ただ君に寄せてゆく波いたずらに朱をこぼしつつ秋草の岸


水の重さ愛する罪はウンディーネ君の背中に雨音を聴く



2015年9月15日火曜日

九月の少年



やがて九月、と声が耳もとをかすめてゆく
窓辺にはレースのカーテンがひるがえり
夏の少年が静かに微笑む


君はどこからか来て何も言わずに去って行った
知らない言葉だけがわたしをさみしくさせて


九月の慰めは夏の衰えを隠すように
少年はきらきらと水をしたたらせる
光りをくちびるに軽く含んでさえいる


うつくしい、といつか囁いた日々


愛されていたその瞳に空を映しているの
雲がゆっくりと流れてゆく


いいえ それは風だったろうか
君が溺れた、白い足を水草にからませて
音もなく流れてゆく わたしのこころを
この風のように



2015年7月22日水曜日

いつかわすれたうたが



いつかわすれたうたが
君のくちびるにのぼったら
一艘の舟がこぎだすだろう
夕陽の海へ 雲のかなたへ


 (そして、振り返ることもなく)


いつかわすれたうたが
君のなみだにかわったら
一羽の鳥がとびたつだろう
夕陽の海へ 白い羽根をこぼして


 (ひとひら、まぶしく落ちていった)


戻っておいで わたしのこころよ
波濤はひかりを増してゆく
それだけが痛みのように
戻っておいで かつて愛したものよ
目を閉じると
夕陽の海ははるかな君へとつづいている


 (もえているのは あれは赤い花、
  血のような赤い花、)


いつかとばなくなった鳥が
君のつばさにかわったら
いつかわすれたうたを
君はうたって





2015年6月24日水曜日

シークレットガーデン




さくらさくら、さよならだけを待っていた花びら散ってエデンの彼方


はつなつの門をくぐってアルカディア永遠の君へ薔薇へ旅する 


夏草を裸足で踏んで逢いにゆくシークレットガーデン君は


くちびるに花びら咥え水の舟オフィーリアごっこ愛もたゆたう


森の奥眠れる塔に囚われてモリスの花柄夢の裾引く


愛だけに目覚める夜明けこの胸に秘める百合花ソロモンの雅歌


君の目のステンドグラスに雨が降る誰も青い花探す巡礼


くちびるにメメント・モリを囁いて花摘みあそぶ夢の中でも


ピルエット、わたしだけの裏庭で光と影が踊る永遠





2015年6月10日水曜日

第十三夜~第十五夜 ロシアと花火とアナベル



第十三夜
夢のはなし。恋人と手をつないで河岸を歩く。「ロシアの川は初めてよ」そう囁くと、ロシア人の彼は静かに微笑んだ。遠くに聖堂の青い丸屋根が見えていた。この風景ははじめから知っている。いいえ、ここは日本だったはずなのに。


第十四夜
夢のはなし。花火をしていた。何の花だったか、きれいに咲いた鉢植えの花の上で、手花火をする。火花が散り、しばらくすると鉢植えに火が燃え移り、花は燃え上がった。それは文字通りの花火だった。


第十五夜
夢のはなし。アナベルという少女と友達になった。彼女の生い立ちは複雑で、いつも彼女は孤独だった。別れ際、永遠に見失いそうだったから、こう囁いた。「いつまでもあなたを待っている。だから私を憶えていて。私はすぐに忘れてしまうから、あなたが私を見つけて」と。



■夢で逢った見知らぬ人とは二度と会えないものです。顔も覚えていないのです。だからこそ、一期一会は印象深いのかも知れません。セリフも鮮やかに覚えていて、それがいっそう醒め際に残ったりします。夢で逢った見知らぬ人は私を見つけてくれるでしょうか。再会をいつも願いながら、けれど新しい出逢いに期待もしているのです。



2015年5月21日木曜日

藤のからまる森で



昼下がりの
うすむらさきに藤がひかる
森で
少女は見知らぬ少女と出会った


目を閉じて 見知らぬひとと
わたしの森を過ぎてゆく
風、


心臓の音だけが聞こえるでしょう
唇と唇が触れ合い
少女の長い髪が痛くって ね、

 
 アナタハ一体誰デスカ
 アナタガ何者カナンテドウデモイイヨウニ


やがて黄昏が
うすむらさきになって
わたしたちの慕情をかくした


見知らぬひとと 指をからめて
わたしの森をさまよう
夜、


何も知らなくてもいいのです
星はお互いの胸にひかって
どこかせつなくって ね、


藤がゆれる うつくしくあるためだけに
少女たちはもうどこへも行けない
森で
明日もその次の日も




2015年4月22日水曜日

春の海の変容



春の海はまぼろし
蜃気楼の楼閣さえ彼方に浮かんでいる
わたしを呼んでいるように


遠い海鳥
緩慢な波
割れた貝殻
ただ砂にうずもれて


あの子のか細い肩甲骨はもうさびしくなかった
両手を差し伸べると
背中でふるえる白い羽根
少年は涼しい目をして飛び立っていった 雲間の彼方
それとも一羽の鳥だったろうか 白い羽根が風に舞って


白い羽根のひかり
雲の切れ間のひかり
風はひかり
ただ春の陽射しにながされて


あのひとの美しい足は魚になってしまった
砂に濡れたと思われたのは
きらきらと光り輝く鱗
少女は花のように微笑んで 長い髪をひるがえした
それとも波間にはねる魚影だったろうか 花びらに似て


春の海はまぼろし
寄せてゆく幾重もの波が白馬の群れになる
わたしもいつしか透過していくだろう


駆けてゆく 駆けてゆく 風を道連れとして




2015年3月19日木曜日

楽園



忘れてはまた思い出す白い馬スノードームをわたしの冬よ


赤い鳥、涙する日も喜びもわたしに巣食う淋しささえも 


現世(うつしよ)を壊すくらいに濃青(こいあお)の翼が欲しい君との恋の


そっと君齧った檸檬黄に染みていつかわたしの月となりゆく 


来世(きたるよ)を見たいと漕ぎ出すみずうみに黒い瞳のさびしいあなた 


夜想曲(ノクターン)薄紫の痣に似るすみれの花よ胸にまつわる


春の目覚め、風も言葉も脱ぎ捨てて森に散らばるみどりの鱗


くちびるをやがて重ねて薔薇色の暁君の愛も知らずに


花が咲いて笑う君の目のなかに楽園がある黄金がある



2015年2月19日木曜日

白い馬(あるいは青い扉)



青い扉の向こうに
雪原が広がっている
かすかなノイズ
そのなかに紛れるように
一頭の白い馬
あれはあなたが放した淋しい夢だ


指で触れて
夢だと知りながら
その長い首を抱きしめる
あなたの淋しさに触れた時から
私はあなたに恋をした
雪原に燃える一条の火のように


誰もいない
私たち二人だけの世界
雪がほろほろと降るなかを
馬は私を背に乗せて駆けていった
どこまでも
私たちは燃え盛る炎だった


私たちは決して消えることのない
火だった
(あいしている あいしている)
いつか世界の果てにたどりつけるように


青い扉の向こうに
雪原が広がっていた
一頭の白い馬
まぼろしのようにまなざしを駆けていった
青い扉が静かに閉じて
私はひとり涙を流す



2015年1月21日水曜日

雪の瞳に映るのは




雪の瞳に映るのは
軽やかな窓
音もなく降る白い彼方の光


    ひとつの塔に夜明けが訪れた
    沈黙はただ安らぎであるかのように
    いつか鳴る(それは予感めいた)鐘の響きを待っている
    幾月も幾年も


雪の瞳に映るのは
冬枯れた薔薇
静かに眠る古い庭の蒼さ


     やさしく触れた指を覚えている
     それだけが夢のよすがであるかのように
     めぐるあの春の音楽のような芽吹きを感じている 
     時を越えて


雪の瞳に映るのは
忘れられた本
誰もいない図書館の片隅


     少女は振り向いて 
     何も言わずに微笑んだ
     愛を知っている?その澄んだ目で語りかける
     今はもう遠くなってしまった胸の炎に


雪の瞳に映るのは
空にのびた木立
もうすぐやって来るはずの影


     少年は犬と戯れる
     息もはずんで嬉しそうに
     愛を知っている、そっと囁いて駆けていった
     やがて白く埋めつくされるこの道の明日を


雪の瞳に映るのは
誰かの声
誰かの笑い声