2011年12月8日木曜日

Colors



こころさえ、雲を光を追い越してひるがえる風みずいろをよぶ


雨はやく言葉を奪い流れゆくたどる指先このうすみどり


風だけがよんでいる道二人ぼっち朽葉いろした秘密かぞえる


頬杖の窓辺にあんずの夕陽して奏でる音があればソラシド


白き朝、旅のこころが兆す夜遠くはなれてくちづけを君


あけがたの灰、夢の果て燃え上がるただ永遠は胸を焦がす火


すみれすみれ痣のようにか胸に咲くほのかに香るあこがれ今も


流れ星尾をひいてゆく思い出に銀の knife を沈める夜更け


手のひらに雪は降りしく消えてなおさびしさよりも赤く残るは



2011年11月10日木曜日

わたしの天使は



わたしの天使は飛び降りる
高い塔からまっさかさまに
天使は翼を広げたまま
わたしへ向かってほほえむだろう


雪が降るように真っ白に
翼は光る冬のはじめの陽射し


     わたしのもとへ落ちてきて
     わたしのこころへと落ちてきて


この窓をあけてある朝見た空のいろ
いつまでもまなうらに焼きついている
何度も何度もこの窓をあけて生きてゆく
何度も何度も思いはいつも同じでも
どうどうめぐりの河であっても


わたしはここに居る
ここに立って見上げている


ある朝目覚めるよろこび
あれは冬のはじめの陽射し
とても遠い遠い場所から時をこえて
あれは高い塔から降りきたるひかり
それを両手で受け止めるために


     どうかわたしのもとへ落ちてきて
     わたしのこころへと落ちてきて


わたしの天使は飛び降りる
この朝もその朝もめぐるひかり
わたしにやさしくほほえみながら




2011年10月12日水曜日

ねむり



おやすみ、あなたの黒髪にまだ青い葉をからませ
おやすみ、蔦は赤く、赤く血の色のよう


あなたの血のように赤く 私の血のように赤い
蔦を体に這わせ 木の葉の雨の降りしきるなか
そっと夢みる秋は遠い火の匂いがする


誰かが焚いた火を静かに守るように
あなたのなかで燃え続けるいのちが
いつしか心をあたためていつしか指も足先も睫毛も
焦がして けれどその火から目を逸らさずに
じっと見つめる森の彼方はこうして夜も昼も明るい


その火はあなたを強くするだろう こんなにも
その火はあなたをやさしくするだろう まるで
あなたの血のように赤く 私の血のように赤い


( 木の葉は降り積もる あなたの時間を満たすため )


おやすみ、あなたの黒髪はまだ若く花が似合うとしても
おやすみ、匂うように白い無垢を瞳のおくに宿して



2011年9月7日水曜日

恋しくて



恋しくて雨のソーダ水飲み干したはじける泡よ恋しくてまだ


ものがたり、は続いている泣きながら夜そして昼あなたの時間


たわいなく戯れ過ぎる風としてもふりむかないで首筋にただ


目の奥を覗くよろこび楽園はふいにほほえむ見つめ返して


僕たちは見知らぬ言語さびしくて泣いて笑ってまたくちずさむ


いつかいつか、胸の谷間で啼く小鳥いつか遠くへ飛ぶ合言葉


海を聞くそと頬寄せて君を聴く胸に満ちては交差する波


悩ましく驟雨が去ったあとの空虹を探して星をみつけて


風すこし明るいひなたまどろんで夢の中まで恋しいひとり



2011年8月10日水曜日

夏鳥へ



いつか飛んだ空をおぼえている
風を切ってどこまでも青い玻璃の岸辺
さかしまに映る幾千の森 草 花の密度
いつか鳴いた声をおぼえている
朝靄の彼方から裂けた絹糸のような
あれはなつかしい 切なる声


心は渇いているから空を見上げる
届きそうで届かない指さきに
流れてゆく風のララバイ
明日をつかむ指はまだ細く頼りなく
飛ぶすべを知らないのです
飛び方が分からないのです


声にならない声はどこかへ運ばれて
ああ もう行方不明になってもいい
もしか届いたなら唇に含んで下さい
私であったかも知れない吐息を
誰かであったかも知れない翼を
唇で触れてどうかやさしくその舌を這わせて


風の中にふるえるただひとつの夢よ
目覚めたのちすべてを越えて飛んでゆこう
あなたのもとへ 遠くへ


2011年7月7日木曜日

青らむ、



青らむ、夏の
わたしの首すじ に
風がひそかな挨拶をおくる


揺れやまぬ草の穂先のいじらしさ
痺れた指でもてあそびながら
あなたのことをかんがえる


青らむ、人の
まなじりの鋭さ に
わたしの夏がはじまってゆく


白いドアからのぞく腕の地平線
あなたの手のひらから潮の匂いがして
海にすでにさらわれている


青らむ、波の
響きが して静か



2011年6月9日木曜日

失語の春



涙なみだ花のつぼみを押し抱きながれるままの失語の春の



ほしいまま虚空をすべる鳥にこそつばさに適う言葉も持たず



指さきを染める苺のいじらしさキスするほどのかわいい夢を



見残してまた過ぎてゆく桜雨、次の世までも忘れ得ぬひと



あいすると風の梢をふるわせて頬寄せるきみ若葉は匂う



こだまは返る、胸とむねの青い渚、遠い彼方の鳥のひと声



幾たびも荒地野原に跪くあいするという痛みを赦して



草の穂をゆらす風、今をさらえよ心は惑う感じやすくも



たそがれは本をひらいて目を閉じる頁(ペイジ)をめくる夏の指さき



2011年5月12日木曜日

Nocturne



風が走っている、この胸の中で
指先で奏でてゆく夜の心音
私を呼んでいる遠い声が
耳もとでこだまするたまゆら
そっと指をのばす、頬に触れたなら
夜明けのはじめの光が胸へと届く


あなたはみつけたの、私は
裸足のままで何も飾らず
ただ心の命ずるままの翼
暗闇でも恐れはしない
どこまでも駆けてゆく、踊るようなつま先で
ただひとつの星の輝きを頼りに


砂時計はまだ落ち続けている
壁時計の針はまだ動いている
すみれは匂っている、心のどこかで
やがて咲く日をやわらかに待ちながら


私のすみれよ
ひそかにもえているだろう
決して消えることのないその火よ
いとしいあなたを抱きしめる、夜も昼も


2011年4月13日水曜日

シーガル



――淋しい鳥の夢をみた、
     あなたは一体誰ですか


シーガル 夢をみたの
お前の心臓はとても温かかった
わたしとあわせるとちょうどぴったりして
シーガル 夢だと知りながら
お前を強く抱き寄せた


なきながら目覚める朝、
見上げればもう春なのです
空はほんのりうす青く
飛行機雲が走り
なのに どうして
冬の瞳で遠くを見つめる


波濤は白く光っている
手招くように窓の向こう
指をのばすと
海までもう少しで手が届く
あなたは波のように寄せてくる
そして風の中で笑って振り向いた


大好きよ、
不器用な翼で風を切る
怖がらずにどうか
指先を水に濡らしたら
春はいつもそこで待っていてくれる
(だからなかないで いて ほしい)


シーガル 好きだといって
わたしも同じ言葉を口真似る
お前の噛んだくちびるはこんなにも熱い
夢だと知りながら シーガル
強く強く抱きしめた






2011年3月10日木曜日

冬の窓



冬の窓押し開けとおく空を見る瞳をのぞく異端者のごと


言葉いまだ伝えきれずくちびるを噛む、ただ強く血が通うよう


口寄せてささやく夢よ火と燃えてこころに満ちる雪は今しも


いたずらに Сердце моё 言葉だけが降り積もりふる冬の森にて


たましいの発芽する庭光浴びいつかどこかでめぐり逢う春


声とおく窓開け放ち飛び立てる渡り鳥より天使よりなお


赤い花あかいあかいと唇でころがしあそぶ恋のこころよ


ガラス片ふるわせ届くこの痛み文字に声音にくちづける朝


赤い花胸にこぼれてほろほろと痛く恋しく春を知っている



2011年2月10日木曜日

二月の星



その痩せた枝に忍び寄る風は音もなく
尖端に震えている明日 けれど確かな鼓動のように
その鼻筋に流れる涙はかなしみではなく
指をのばし拭い去ればただ あたたかな頬のぬくみ


僕は地に立って 愚直な二本の足を思っている
幼くつかもうとしている指を手を思っている
やがて歩き出す歩みが少しく軽くあるように


いつかくちずさんだメロディが僕を日々に運ぶ
遠くまで行こう
そして、という希望に熱に浮かされながら


二月の星よ、
瞳に宿る輝きを見つめ返したら
生きることの意味を知る


2011年1月13日木曜日

冬のオフィーリア



雪が降ってくるのです
音もなく 羽毛のように
やわらかく 花片のように
雪が降ってくるのです
見えない雪がすべてを包んで
私を埋めてゆく 冬の森


ごらんなさい
遠くから蹄が駆けてきて
立ち止まる影がある ふいに
木間から私を覗う冬の瞳よ
振り向くと誰もいない
ただ 雪だけが れいれいと


 ねえ あなた
 胸がくるしいの
 思いだけが泡のように
 立ちのぼる 立ちのぼって
 空の果てから落ちてくる
 あれは雪、雪です


 (何も知らない
  知ってはならないのです)


指がのびてきて頬に触れる
なぜそんなにやさしい手つきで
私は息もできず水に溺れ
抱き合ってくちづける冬の川
永遠は流れゆく 私のなかへ
私の口腔をつき破り


 ねえ あなた あなた
 木霊する、あなた
 見えない雪を花のように飾る
 このたえまないもの


 (未来の夢を見る 
  あるいは過去へ遡るように)


雪が降ってくるのです
音もなく 羽毛のように
やわらかく 花片のように
雪が降ってくるのです