2013年12月12日木曜日

岸辺にて



君は舟でわたしの岸に逢いにくる瞳のおくの蒼いみずうみ


思いだけが水脈(みお)引いてゆく水の上恋すればただ紅葉はあかく


言葉さえさらわれてゆく風の街耳から耳へささやかれつつ


いつかまた口ずさむうたやがてまた街はたそがれ秋風のなか


黄金に銀杏は燃えて月に日に降り積もるゆめ日々は過ぎゆく


夜明けに、二人だけの星生きてゆく鼓動がいつも胸にかがやく


ぼくたちは夢を見ているカルーセルゆられゆられて世界の果てへ


いつの日かめぐり会う旅野を走る風を分けゆくなつかしい馬


みずうみに鳴る鐘の音岸辺にて幾夜を君のくちづけを待つ



2013年11月20日水曜日

白い鳥、飛んでいった



ね、といって目を閉じた
静かにその翼を閉じるように
ね、あなたの見る夢のなかに
白い鳥、翼をひろげて飛んでいった
その羽ばたきがかすか、耳もとにくちづける


ね、あなたは今も孤独なのだろうか
あの湖にさまよう淋しい舟のように
いつか二人で沈んでゆく夢を見た
わたしは見上げて あなたの指さきが消えるのを
あぶくが涙のように立ちのぼるのを


白い鳥は言葉をうしない、わたしはイラクサを編む
かじかんだ指は時を編む この心あなたに届くように


それは誰も知らない、二人だけの時間
いつか指さきが触れる暁の彼方に
あなたは微笑むのだ わたしをその目でじっとみつめて


ね、あなたの見る夢のなかに
たとえ遠くても行こうとおもう
わたしはきっと白い鳥になってあなたのもとへ
 泣きながらなきながらあなたのもとへ
わたしたちの翼はまだ若くこんなに力強い


白い鳥、翼をひろげて飛んでゆく
白い鳥、あなたの見る夢のはるか遠くへ 彼方へ



2013年11月6日水曜日

第一夜~第三夜 子犬とロザリオとカーネーション



第一夜
夢のはなし。眠っている私の左手を子犬が咬もうとしている。戯れだと知っているから、そのままじっとしていた。子犬はやさしく歯を当てた。


第二夜
夢のはなし。忘れ物に気づいて、さっきまで食事をしていた店に戻る。店員に断り、階段を駆け上った。テーブルの下を探すことしばらく、それは見つかった。ロザリオだ。忘れたのはこれだったんだと思った。


第三夜
夢のはなし。雪が降り積もっている。吹き溜まりをかきわけると、花があった。輝くばかりの白いカーネーション。生き返ったようだった。花言葉「私の愛は生きています」。




■Twitter で不定期に書いていた夢のはなしをブログにも少しずつ載せてみる事にしました。題して「夢百夜」。夏目漱石に倣って、実際に私が見た夢の数々です。印象に残った夢を、泡のように消える前に、忘備録として短い言葉で。でも、何だか抽象的ですね。夢はいつもそう。いくつもの断片の集まりなのです。




2013年10月23日水曜日

十月、黄昏



十月、黄昏
やさしい人の涙を僕は知らない
誰か呼んでいる (猫の仔のようにか細く)
振り向けば街をすり抜けいつかの風が吹く
頬に触れる、あのなつかしい指先で


   がまぶしくて目を閉じる
痛みを知る時のあざやかさで僕は取り残される
黄昏にひとり、そして何かを待っている


たとえば通り過ぎてゆく風のきらめき
たとえば気まぐれな光の明滅
たとえばまだ見ぬ人のさよなら
たとえばすれ違って別れてゆくだけの


それはきっと物語のはじまりの最初の文字に似ている
あるいはおしまいにある「終わり」ではなく
「続く」のことば 


続いている、だから明日もこんなふうに僕は
何かを待ち続けていて
待つことだけがやるせなさのように


十月、黄昏
僕自身のことを僕はまだ知らない
影だけが長くのびて (口笛吹きながら)
帰ってゆく あの角を曲がって
また明日、くちびるでそっと囁いた風の中を



2013年9月18日水曜日

孤独の窓辺



海風にめくれる詩集さらさらと夕陽が射せば金が散る窓


夕立が過ぎて誰かを恋しがる覗く青空痛みにも似て


潮騒が胸裡に満ちてはなれない朝に夕べに打ち寄せる君


悲しみは魚のようにひるがえる水没する街雨だけを聴く


やわらかな慕情を人にゆるしては淋しくていつか口寄せる桃


くちびるは君のなまえを忘れ得ず散る花びらよ指に髪に目に


夏星へ永遠の君へ旅をする銀河鉄道ひかる野に立ち


蝶の羽、風にふるえるその心光に飛べと夢のささやく


夢にまで潮騒遠く忍び込む孤独の窓辺透き通る秋



2013年8月21日水曜日

緑のおもいで



あの月をおぼえている
かつて輝いた太陽を知っている
その手に触れたものも
触れ得なかったものもぜんぶ


それは、
緑陰にそっと揺れていた
真昼のしんとした光を浴びて
それは、
あなたしとわたしが触れた
名も知れない小さな花


ふるえていたのは風のせいではないこと
あなたとわたしの唇が
かすかに触れ合ったことなど


黄昏は早く訪れた
誰もいない花影でふたり
月も太陽もすべてわたしたちのものだった
見知らぬひとのほほえみさえも


それは、
緑陰にそっと眠っていた
わたしたちのもうひとつの翼
それは、
あなたとわたしが放した
名も知れない小さな鳥


アイシテル アイシテル
やさしい声でくり返すリフレイン
すべてわたしたちのものだった 月も太陽も
見知らぬひとのなみださえも



2013年7月18日木曜日

雨のなかの馬



雨のなかの馬
時間さえ檻のなかに閉じ込められる
そっと名前を呼んだ
季節が過ぎて青いさびしさが満ちてくる


後ろさえ振り向かず駆けていこうとする
雫のビーズをまき散らす夢よ
どうか名前を呼んでほしい
私は君のために生きる
(そして指先をのばすウンディーネ)


雨のなかの馬
目の裏側に降るかなしみを忘れて
静かに目を閉じると
遠くで光るものはいつしか海になる


世界はこんなにも君を受け入れている
雨は降りそそぐまぶしい光のように
君の心をも頬も濡らして過ぎてゆく
すべてが美しいと言って
(たとえばにくしみも涙さえも)


君よ、海があるならば
こぼれないように手のひらに包む
海があるならば
その胸の貝殻の響きを聴こう
海があるならば
くちびるとくちびるを合わせて息をする
君が溺れないよう 君を抱きしめるよう
(そして指先をのばすウンディーネ)


雨のなかの馬
ふるえながら泣きながら走って行け
瞳のなかで海があふれている
太陽がのぼり月がのぼり星が輝く地平
雨のなかの馬、君は、





2013年6月19日水曜日

手紙



まっさらな春の手紙を開封す花びらこぼれていちめんの花


雨のように心は君をおほえてるインクのにじみ幾度もなぞり


桜闇何を待ちわびあの日からかごめかごめの輪のなかにいる


雨でした、泣き濡れたまま奪ってよくちびる触れたその場所へ君

 
恋しいと空行く風にしたためる若葉揺すれて青い切手を


さよならの五月のかもめ便箋の白い海には愛するの文字


わが小鳥血を流し鳴く赤色(せきしょく)の薔薇よ答えはどこにもなくても


はつ夏の森をひらいて雫するみどりの馬のギャロップかるく


(元気です)思いひとつを投函すいつかは胸に届いて風よ



2013年5月22日水曜日

山鳩の遠く鳴く朝

 
山鳩の遠く鳴く朝
僕は旅に出る
心は遠く動いている
窓の向こう
あの坂を下った道に


風が梢をさやがせて
あれは空に向かって高鳴る心臓
緑の葉が一枚 また一枚
流されてゆく
風に何を告げ別れてゆく
透き通ったまなざしがあれば
明日に透けてゆく


誰も知らない時間がある
光をまとったまま花は微笑み
秘密のことばをささやくのだ
いつか小径の濡れた緑をくぐり抜け
子供に還る
緑の葉が一枚 また一枚
流されて


どこへ
それは旅
一瞬のなかに
ある
永遠


いつも誰かが
呼んでいるような気がした
あれは鳥の声
いいえ もうひとりのわたし
遠い日見失った後ろ姿
はるか草を渡ってゆく風の


山鳩の遠く鳴く朝
僕は夢を見る
緑もえるまだ見ぬ国を
夏が白い手でさし招いている
やわらかな指先で


 

2013年4月24日水曜日

馬酔木のうた


弓弦(ゆづる)が啼いている
火と風の言葉で
戦いはもう終わったと
あのひとはもう帰って来ないと


裸足で駆けてゆく濡れた樹下闇
白い裳裾を引きずりながら
胸には冷たい雫が流れ込む
いつか二人だけで感じた夜露のように


あのひとの手のひらはあたたかかった
草をちぎる指先に血がにじむ
あのひとの頬はあたたかかった
顔と顔を寄せ合って交わすくちづけ
あのひとは燃えるいのちだった
風は知っていた 火はすべて見ていた


私の腕輪は真二つに割れた
馬酔木を手折りもう二度と帰らない
刀子(とうす)を握りしめもう二度と帰らない



2013年3月14日木曜日

わたくしの小鳥



ことりことり、ないているのかうれしくてまたかなしくて冬の青ぞら


立ちつくす白い時間をせつなさは雪を見ている君の目に降る


窓とおく汽笛は過ぎてひかりのみ冬の手紙を燃やす夕べを


夢に泣いて目覚める日々の雨しずく永遠なんて知らなくていい


また過(よ)ぎる汽笛をのんでガラス窓思い出だけをさがす雪原


廃園の眠りのなかに光あり記憶の薔薇のうつくしく咲く


月の出を待つ砂浜を駆けてゆくまぼろし、春の静かなひづめ


ベルが鳴り、いつか飛び乗るはずの列車走り去りゆく風の往来


わたくしの小鳥を空に放してはまた拾う木霊やさしい明日(あす)を



2013年2月20日水曜日

バラード



風が吹いたなら バラード
君のまつ毛に触れた歌を
そして君の唇からこぼれる吐息が
空になって雲になっていつか
明日へと届く (耳をすませている)
風が吹いたなら バラード
君の頬にそっと触れた歌を
あの日のやさしさに満ちた瞳をあげて
(その強いまなざしが欲しい)


春になる 春になる 青い草原に
寝転がって見た空の あれは歌だった 
低い光が射して啓示が降りてくる
町は見渡す限り金色のかげろう
海のようだった 寄せては返し
どこまでも世界を包んで輝いていた
どこまでも遠く行けるとただ信じた


(風が吹いたなら バラード
 君のまつ毛に触れた歌を)


春になる 春になる と口にして
冷たい雪が目の中に降る
名づけられぬ憧れが今も鳥のように
光に打たれて翼を広げはじめる
静かな森が横たわる 空も雲も沈黙も
涙がすべてを濡らすだろう やがて雨のように
やがてなつかしい歌にも似てそれは


(風が吹いたなら バラード
 君の頬にそっと触れた歌を)


歌はやさしかった  いつしかくちずさんだ歌は
風の中でひとり目を閉じて待っている
春になる、春になる、春になる、


2013年1月23日水曜日

冬の小鳥



かなしくてないているのか
さびしくてないているのか
雲の切れ間に青空
風に小さな羽根をふるわせて


うれしくてないているのか
いとしくてないているのか
透きとおった雪が流れて
目のなかに降るように


赤い実は熟れて
今日という日も光っている
愛というこころを
知っているのか知らんふり
小鳥 私の小鳥はないている
赤い実がほしいと
ついばんだら命が光ってゆく
静かに涙をこぼしている
胸のあたりがこんなにもくるしいの


やさしくてないているのか
せつなくてないているのか
木もれ陽に過ごす冬の日
うたを嘴にそっとのせよう、ほら


ああ 風は雲は
流れてゆく
冬の小鳥はうたっている
小さな羽根をふるわせて
愛というこころをふるわせて