2020年5月15日金曜日

アナザーバード



緑の扉口(とぐち)で世界がはじまる
アナザーバード
ありふれた季節に
誰でもない名前を探していた
初めて逢うひとのような
遠い
横顔を


朝露に濡れた
葉裏がひるがえる
風の道
ためらいながらも
腕のなかに抱かれて
そっとその頬に指をすべらせた


さびしく燃えてゆく鳥の声
心臓をついばむように
花ひらく
明日
生まれ変わって円環する
時も粒子も越えながら


しずかな色彩で呼んでいる
それとも
アナザーバード
何気ないしぐさで
誰でもない名前を口にふくんでいた
風の行く先を見つめる
いつかのまなざしを
どうか



2020年4月4日土曜日

第三十七夜~第三十九夜 お寺と秋の写真と湖上の家



第三十七夜
夢のはなし。お寺の母屋の一角で蛍光灯が点いていると思ったら、ぱっと消えた。すると、堂内から盛大に読経が聞こえて来る。入り口には信者がすでに集まっていて、近くにいた人人も我先に押し寄せる。かきわけるようにその場から離れた。


第三十八夜
夢のはなし。秋の風景のなかにいる。樹々は色づき、空は青い。陽光に満ちたまっすぐな道のすぐそばで腰かけていた。丘に続く脇道には銀のススキが光っている。デジャヴ。これはいつか写真で見た風景なのだと気づいた。


第三十九夜
夢のはなし。道がいきなり切れると、湖が視界に広がった。湖上にはひとつの集落のように家が立ち並んでいる。教会もあった。屋根も湖面も日の光を浴びて、きらきらと眩しいのだった。



■光のある夢を見るようになったような気がします。人工的な家屋の電灯は消そうとする場合が多く、自然の陽光は視界にあふれている。星空のきらめく夢はあるのに、月光は夢の中ではあまり射さないようです。不思議です。逆に光がなく視界が暗い夢もあります。光ある夢は心地よく、やはり美しい。



2019年12月7日土曜日

眠レナイ夜ニ



月だ
月の光がさしている
やがて窓からこぼれるように


羊はいくつ柵を越えただろう
少年は薄目をあけて天井を見る
白いかたまりは柵からあふれて
容赦のない瞳でじっと見つめ返す
人形は口を利かない
抱きしめても青い目は遠くを見るばかりだ
トランプ遊びにももう飽きた


むかし荊の城に閉じ込められた姫は
今も百年の眠りをむさぼっているだろうか
それとも林檎を齧った赤いくちびる
姫のまぶたには青い月の光がさしている


  S`il vous plait.


月の光が
やがて手に届く
指先にからみつくように


眠れない夜には待ち続けよう
あのひとのやさしいくちづけと
真夜中に転がる一個の林檎



2019年9月14日土曜日

みずうみ



草原の彼方にあなたを見た
昨日の夢のように意味もなさずに
草の葉だけが知っているこの遠い既視


足もとがおぼつかなくなる
一羽の鳥が飛び立って空は青く


(わたしは行方知れずの夢です)
(それとも一羽の迷い鳥)


わたしに手招きする燃えるみずうみ
まぼろしだったのか あなたが顔を沈めて髪を広げた
日々はいつか燃える
後ろ姿も探さずに影法師だけがのびて
今もふいに新しくわたしはわたしのあなたを知る


あなたのための湖面はすでに凪いで
わたしのための簡素なボートだけが
岸辺に寄せてゆくみずうみ
いつか足指を濡らして渡ってゆく
漕ぎ出してゆく
旅するようにあなたのもとへ


(そうしてこの夢から放たれるために)


ここではない草原の彼方にあなたを見る
明日の予感のように唐突にきっと
一羽の鳥が戻ってくる この掌のなか




2019年7月17日水曜日

第三十四夜~第三十六夜 階段と幼なじみと球体



第三十四夜
夢のはなし。そこには梯子状のものや上階へ行くいろいろな階段があった。どれでも好きなものを選んでよいと言われ、木製の扉の裏側にある古びた木の階段を上る。たどり着いた階には本棚や机に本がびっしりと置かれていた。どれも好みのものばかりだった。


第三十五夜
夢のはなし。小さな子供に戻って、幼なじみの男の子と笑ってじゃれ合う。学生服を着るようになっても、あなたと戯れた。けれど、現実には見知らぬふたり。


第三十六夜
夢のはなし。会場に宇宙からやって来たという球体があった。透明な中に鳥の卵のように何かがいた。ふと目玉が動いてこっちを見て認識したようだった。「あなた選ばれたのね」近くにいた人が囁く。その場を離れたが、何に選ばれたのかは不明である。



■階段やエレベーターの夢をたまに見ます。いずれも上階または下階への移動手段ですが、階段は建物の中にある場合がほとんど。学校の夢によく登場するのですが、階段を移動しているあいだに迷ってしまうのです。目的の場所にはいつもたどり着けない。その中でたどり着いた場所は貴重なのかも知れません。



2019年5月18日土曜日

Equus



ある日突然 少女たちは愛に目覚める
砂漠の朝 あるいは雪山の夜に
一頭の馬のように私のもとへ
走って来る そして駆け抜ける愛の痛み


運命だと知るには遅すぎるだろうか
少女たちは祭壇に祈る あるいは燈火に跪き 
花々が咲いて枯れてしまう前にどうか
一頭の馬のように私のもとへ
走って来て 愛を抱いたまままっすぐに


砂嵐の通り過ぎたあとで抱きしめられたように
雪降る森林のはざまに倒れ込むように
あのひとは私を見つめている 遠く谷山の彼方
オアシスに 凍りついた湖に


夢のくちづけは熱く滴る蜜
夜明けはこぼれていつか翼をもがれた鳥になり
雲になり風になり散って血のように赤くなる


それは秘められた契りのようなもの
少女たちは薄絹に目を閉じ 毛皮に沈黙を守る
愛だけを目印にして駆けてゆく
一頭の馬のように私のもとへどうか
待っている 待っている とこしえにあなたを



2019年4月9日火曜日

第三十一夜~第三十三夜 馬の温泉と廃墟公園とパレード



第三十一夜
夢のはなし。銭湯に行ったら温泉地になっていて、馬たちの浴場もあった。小型馬を連れた客と言葉を交わす。湯屋の入り口で紙を渡され短歌を書くことを強要されるが、下の句が思い出せなくて俳句になった。「馬のお湯さわやか香る秋の暮れ」


第三十二夜
夢のはなし。友人たちと連れ立って小高い斜面にある廃墟群を見に行く。教会をはじめ、廃れた民家が木立に点在しているのだ。今は公園になっており、連休のため、出店も出て、家族連れがいっぱいいてにぎやかだった。普段は誰もいない寂しい場所だと知っている。


第三十三夜
夢のはなし。近所で祭りのパレードがあった。大勢の人が練り歩く中に、山車に乗った一人の外国人女性が歌を歌っている。知らない歌だった。その歌声はか細いようではっきりと心にも届いた。言葉は分からなくても。



■音楽の夢は余り見ないかも知れません。その中で、夢の中の歌はなぜか知らないものが多いです。断片だったり、自分で歌う場合はうまく歌えなかったり。珍しくはっきり歌声を聴いたのは外国の歌でした。知らない言葉の美しい歌でした。夢の歌の歌詞は夢の中だけのもの。すぐに忘れてしまうのです。