2018年6月13日水曜日

レイン



海鳴りとは違う何か


僕の胸の裡で雲のように高まり
やがて激しく満ちてゆくもの――レイン
耳を澄ませば走ってゆく
樹々の隙間から見た青い空に
今しも雲が 鳥が羽ばたき
まるで君の心のように触れてゆく
指先が濡れてゆく
あれは君の瞳か――レイン
手を伸ばしても届かない


海鳴りに似た何か


とても遠い何か


きっと溺れてしまう前に
僕は息継ぎをする
僕は目を閉じる





2018年3月27日火曜日

夢の丘、一角獣の涙



夢のなかの丘で待っていた、
あなたを、あなたに似た瞳の一頭の馬
いいえ、あれは一角獣というまぼろしの生き物
わたしのなかに駆けてきた純粋な涙


あなたはいつも雨が降っている その頬にも
雨は降りやまない わたしたちのなかにも
あなたという見果てぬ夢を
強く抱きしめて、抱きしめると涙をこぼした


 わたしハ一角獣ヲ夢見ルノデス、


同じ雨に濡れていながらあなたは遠ざかる
春になったら雪解け水が流れるように
春になったらあなたは若木のように枝をのばし
わたしをすり抜けてしまうのだろうか
あるいは白い馬のように駆けて行って


 ソノ一角獣ノ瞬キ二モ似タ一瞬ノ夢ヲ、


あるいは白い馬のように駆けて行って
あなたに追いつけるように
雨が降りしきりすべてを通り過ぎてゆく
雨はあなたに似ている わたしの頬に触れて
やがて跡形もなく消えてしまうように


 ダカラコソわたしハあなたヲ愛スルノデス、


それでもわたしのなかにやさしく残る夢だ
いつしかわたしの腕のなかにひざまずく生き物
わたしを慰める白いまぼろしを
強く抱きしめて、抱きしめると涙をこぼした


夢のなかの丘で抱きしめていた
あなたを、あなたに似た瞳の一頭の馬
まっすぐに見つめて わたしを貫いて
一角獣のたてがみ、風が吹いたら駆けてゆく



2018年1月20日土曜日

第二十五夜~第二十七夜 ガラス工房とマラソンランナーと灯台



第二十五夜
夢のはなし。顔も分からない人と寄りそって歩いている。小さな商店街を抜けると、一人の少女が「私の夢はガラスを作ることなの」と囁いた。古びたガラス工房があり、木のテーブルにはすでに出会っているはずの、見知らぬ彼が座っていた。奥には青色を内包したガラス玉がいくつもぶら下がって。


第二十六夜
夢のはなし。ちょうど赤信号だった。横断歩道の前で待っていると、大通りの向こうからマラソンランナーの一団(外国人選手もいた)がわさわさ走って来た。するといきなり左折して目の前の横断歩道を渡って、こちらに目がけて一目散に走って来るではないか。寸前でよけた。


第二十七夜
夢のはなし。アーケードの隙間から、歩きながら巨大な建造物を見上げている。黒と白のモダンな灯台だ。私たちはみな灯台を目指して歩いている。それは人生のようだった。



■街を歩く夢をよく見ます。歩いていてどこへ向かっているのかは定かではない場合がほとんどです。目的地に行こうとして夢の迷路で迷ってしまう事も多々あり、夢の街は一筋縄ではいきません。でも、知っているようで知らない夢の街が好きです。最近ではなぜか巨大な建物が登場するようになりました。願わくばいつかどこかへたどりつける事を。




2017年12月17日日曜日

十二月の本



十二月の本を静かにひらく
革表紙を少し湿らせて
窓の外には雨が降っている
雫が滴り落ちる またひとつずつ
わたしの頬にこぼれた涙 どこかで流したはずの涙
向こう側にすこしずつ落ちて
波紋を浮かべる遙かなみずうみになって


十二月の本の向こうに
裸木が一本雪原に佇んでいる
誰かの目印になるように
いつか森になることを夢見るように
白い素足で走る森 あなたがまるくなって眠る森
夢のなかで抱きしめていた
ひるがえる梢があなたであるように


十二月の本は音もなくひろがる
凍った空に鳥が一羽飛んでゆく
すべてを越えて届くように
わたしの胸に線を引くように
風を切る翼は遠い 
思う心も願いもきっと彼方にあるようで


十二月の本にいつしか囚われて
ガラスのなかの一途な世界
閉じ込められて 飾られてなお
あえかな羽毛の祝福で覆われる
あなたを埋めてゆく わたしを埋めてゆく冷たい愛撫
一瞬でくずおれる何か
触れられそうで触れられない永遠に似て


十二月の本がゆっくり閉じる
何枚もの扉のそのうちがわに
ただひとつのものがたりを隠しながら
鼓動は同調するだろう ふたたびの
鐘の音のように 
口ずさむ韻律のようにひそやかに



2017年10月14日土曜日

夢の手触り



冬の城明け渡すとき水中で愛を交わしてウンディーネのように


雨そして夢から醒めた余白には君のではない愛の降りしきる


君の目に春を捧げる、遠い日に誰かに焦がれ散りし花びら


海鳴りを聞いて一夜の契りとして花をちぎって含む眠りを


夢の花白くていっそ目を閉じる抱きしめられて海の果てまで


砂浜にさびしく光るガラス片破船の旅を君を夢見る


夏は行く忘れ去られた塔の影窓越しに見た輪回しの少女


幾千のひかりに打たれて口づけるほろびいくものなつかしいもの


たぐり寄せる夢の手触り近づいて遠のいてゆく秋草の果て



2017年9月15日金曜日

Iubi-Te-voi Doamne









ルーマニア聖歌もまた美しいのです。ビザンティン聖歌といっても、それぞれ特徴がありますね。Virgia Frincu という女性歌手の澄んだ歌声とバックコーラスの男声のハーモニーが素晴らしいです。「Iubi-Te-voi Doamne 」は「私はあなたを愛し、主よ」という意味で、いろいろな歌い手が歌っているようですが、私は彼女の歌声が一番好き。




2017年7月21日金曜日

アルカディア



風の行方を知らないままで、


君は風を探している
風は君の唇にさえ宿っているというのに
それとも、それはどこか見知らぬ世界の風で


光がここに射してくる
草の穂の襞にも
僕の心の内側にも


光が、ここに射してく、る、


まるでアルカディア
光を溜める睫毛の先も
君の震える心の淵も


まぶしそうに目を細めてどこか上の空で
君は風を探している
このとき、この瞬間の気持ちを


 キット僕タチハ、コウシテイラレル、
 キット何モ持タナクテ、言葉サエモ、


そっと君の手に手のひらを重ねる午後
僕も風を探している
風にその唇をやさしく許されたままで


光が、ここに射してく、る、