夏鳥へ
いつか飛んだ空をおぼえている
風を切ってどこまでも青い玻璃の岸辺
さかしまに映る幾千の森 草 花の密度
いつか鳴いた声をおぼえている
朝靄の彼方から裂けた絹糸のような
あれはなつかしい 切なる声
心は渇いているから空を見上げる
届きそうで届かない指さきに
流れてゆく風のララバイ
明日をつかむ指はまだ細く頼りなく
飛ぶすべを知らないのです
飛び方が分からないのです
声にならない声はどこかへ運ばれて
ああ もう行方不明になってもいい
もしか届いたなら唇に含んで下さい
私であったかも知れない吐息を
誰かであったかも知れない翼を
唇で触れてどうかやさしくその舌を這わせて
風の中にふるえるただひとつの夢よ
目覚めたのちすべてを越えて飛んでゆこう
あなたのもとへ 遠くへ
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