2010年3月11日木曜日
水を渡る
手をのばせばつかめそうで
指のあいだからこぼれ落ちてゆくもの
きらきらと きらきらと
それは光っている 踊っている
*
春の訪れ、光まぶしいこの水辺
まだ若い水草がさやさやと絡みつく
むきだしの脛まで冷たい水に浸りながら
わたしは歩いてゆく 風の方角へと
あなたはまるで切っても切れない絆のよう
水面を覗くと微笑みが見える
わたしをすべて見通すあの瞳で
そうしてあなたの中にわたしを見るだろう
わたしはわたしをそっと抱きしめる
あなたはわたし
*
水の上を名もない風が渡ってゆく
かすかなさざ波を立てながら彼方へ
歌をくちずさみながらまだ見ぬ彼方へ
手をのべるとあなたの呼ぶ声になる
わたしはわたしの声を知らない
わたしはあなた
*
耳を澄ませている
名もない心を抱いたまま
わたしもいつか風になってゆこう
透明な飛沫を上げながら
軽やかな足どりで 振り返りもせず
(きっと夢の中のように)
わたしは歩いてゆく
歩いてゆく
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