2015年4月22日水曜日

春の海の変容



春の海はまぼろし
蜃気楼の楼閣さえ彼方に浮かんでいる
わたしを呼んでいるように


遠い海鳥
緩慢な波
割れた貝殻
ただ砂にうずもれて


あの子のか細い肩甲骨はもうさびしくなかった
両手を差し伸べると
背中でふるえる白い羽根
少年は涼しい目をして飛び立っていった 雲間の彼方
それとも一羽の鳥だったろうか 白い羽根が風に舞って


白い羽根のひかり
雲の切れ間のひかり
風はひかり
ただ春の陽射しにながされて


あのひとの美しい足は魚になってしまった
砂に濡れたと思われたのは
きらきらと光り輝く鱗
少女は花のように微笑んで 長い髪をひるがえした
それとも波間にはねる魚影だったろうか 花びらに似て


春の海はまぼろし
寄せてゆく幾重もの波が白馬の群れになる
わたしもいつしか透過していくだろう


駆けてゆく 駆けてゆく 風を道連れとして