2007年8月10日金曜日
淋しい馬
それは朝陽を煌々と浴びる
蜜のような栗毛だったろうか
それとも夜のように流れる黒いたてがみ
そんな事は重要ではないのかも知れない
長いまつげを震わせる一頭の馬が
街角をひっそり駆けてゆく
人気のない真昼の路地を
朝まだきの湿った草原を
黄昏にひしめく交差点のただなかを
ふとした拍子に馬は立ち止まり私をじっと見る
そのやさしい眼差しに手を差しのべたくなるのだ
鼻づらをそっと撫でながら
豊かなたてがみに頬を寄せて
このままずっと二人きり寄りそって
すべてを忘れて眠ってしまいたくなるのだ
けれど馬はまた走り続ける
何ごともなかったかのようにただひたすら
時には他の馬たちと群れになり
あるいは孤独に突き進みながら
はるかな流線を描いて馬は走ってゆく
その蹄のあとを追いかけて行きたくても
私には許されていない 眺めるだけ
ふと光が射して影が出来るように
淋しい背中を眺めるだけの
馬はいつもひたむきだ
淋しいのはきっと私の方なのだろう
いつまでも追いつく事のかなわない時間に
飛び越える事もかなわない日常に
馬は軽やかに走ってゆく
今日も美しいたてがみを蹄を光らせて
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