2008年5月20日火曜日

五月の鷹



夜のドレープに裂け目が入る
夜明けが裾にそっとくちづけると
私はすべてを脱ぎ捨て
一羽の鷹になって飛んでゆく
まとわりつく冷気を翼で切りながら
あなたを求めて飛んでゆく


   私はこの目であなたを見透かす事ができる
   あなたのもとへ飛んでゆく事も
   あなたを追う事もできる


私のガウェインよ
まだ眠っているだろうか
霧に包まれたまどろみの中に
まるで眼下に広がる森のようだ
私はその鼓動を知っている
湿ったやわらかな静脈の手触りを
今まさにこぼれ落ちようとする吐息を


   私はこの爪であなたを切り裂く事ができる
   あなたの胸にじっと留まる事も
   あなたを待つ事もできる


誠実なガウェインよ
その夢に私はいるだろうか
ひとときの花に漂う心と知りながら
私をとらえてはなさない蜜だ
ちょうど深い湖に影が映るように
いつまでも旋回してやまない夢だ
あるいはこうして草原を飛んでゆくように


   私はこの声であなたを呼び覚ます事ができる
   あなたの耳に届くようにただ一度
   そのひと声を今啼こう


夢の中の夢で重なる事があるだろうか
あなたの時と私の時
ガウェインよ
その時は翼を広げて飛んでゆこう
夜のドレープが消え入る前に
まだ青い地平線の彼方へ



2008年5月6日火曜日

水際、まだ浅い夏の



光は満ちてゆく
花のような小舟を浮かべて
ふたたびの光は寄せてゆく
まだ浅い夏の水際に


片足を浸して眺めるだけだ
ドアを細めに開けて
そっと知られぬように
飛び立つ小鳥を慈しむように


森はいつか呼んでいた
枝先に若葉を繁らせて
あんなにも光るのは
まなうらを哀しくさせるため
それとももっと遠くへ誘うため
踊るような足どりでつま先で
歩いてゆく陽だまりの小径
森はいつしか呼んでいた
春のひとみを隠していた


何も持たない心で
指先をそっとすべらせれば
水滴がはね上がり
一瞬の虹を描く永遠


風は追いかけてゆく
いくつもみどりの輪を広げて
ふたたびの風は響いてゆく
まだ浅い夏の水際に