2009年7月22日水曜日

ふたり



陽は斜めに射して蜜蜂が群れる
垣根には今年も薔薇が咲いた
みんな二人だけのもの
手をつないで小径を駆けてゆく


ぼくたちは (わたしたちは)
村はずれにひとつの廃屋を見つけた
秘密の隠れ家だと一目で知った


    かくれんぼうをしようよ
    ぼくは (わたしは)
    とてもうまく隠れられる
    さあ 目をつぶろう


破れ窓からきらきらと埃が踊る
黙っていても二人には同じものが見える
ここは王国
窓の外を兔が駆けてゆく


     *


ポケットには甘いキャンディー
口に含めば大人にも子供にもなれる
でも とても勇気が必要だろう


    さあ 指を探って
    ぼくは (わたしは)
    いくつになった
    あれから何年たった


大人になれば目に見えると思っていた
ずっと一緒にいられると思っていた
大切なこの気持ち
トイードルダムとトイードルディーのように


     *


    ねえ 目を開けてもいい?


それから それから 返事を待ち続けて


Darling ぼくたちは (わたしたちは)
何かを恐れて今も目を閉じたまま
肩寄せ合ってあの廃屋の中で


同じ微笑 同じまなざし 同じ声で笑う
同じ時間を生きている物語
そうさ みんな二人だけのもの
あの小径をもうすぐまた駆けてくる



2009年7月8日水曜日

七月の舟



七月は一艘の舟
僕らは詩の上で旅をする
オールは持たず自在にすべってゆこう
喜びも悲しみも傍らに従えて
まだ陽はあんなに高いのだから


指を浸せば波紋の向こうに
雲は流れ 陽はきらめき
ゆらりとかしぐ青い空も見えるだろう
僕らの言葉はまだ拙いから
この幸福を形にする事は出来ない
せめて響き合う何かをいつも温めて


 ごらん沿道には夏草がびっしり生い茂り
風が首筋を撫ぜてゆくその光の先で
君が笑っているような気がして
なぜだか切なくなるんだ
君はあれから大人になったかい
すました顔で一人歩いているのかい


僕らは迷ったり悩んだりつまずいたり
今も傷だらけになって漂っている
水底にきらきらと沈んでゆく
小さな塵芥(ちりあくた)にさえ涙を流したりして
だけどそう 顔を上げていよう
まだ陽はあんなに高いのだから


七月は一艘の舟
僕らは詩の上で旅をする
時々は冗談を言って笑い合おう
時々は寄りそって手をつなぎ合おう
例えその指が近くにないとしても