2012年4月12日木曜日
海辺にて
潮騒がさわいでいる
白い手のひらを翻しながら
あなたが光を浴びて笑う海辺です
わたしがまぶしそうに昼の月を探す
あなたが風に吹かれてたたずむ海辺です
わたしが泣きだしそうに砂に貝を拾う
波にたわむれて歩く素足に
物問いたげな時が寄りそう
あなたは逃がさないように
あなたは時をしっかりつかまえた
確かな指先でそっと
わたしの心を握りしめる
すべてつかまえようとしては駄目
風のようにいつかすり抜けてしまうから
あなたは春のひとみを持ち
わたしを見つめる永遠の海辺です
こぼれるのは涙だけでいい
あまさないように抱きしめていようと
不器用なあなたを
臆病なわたしを
ほら潮騒がさわいでいる
白い手のひらを翻しながら
ひとみを逸らして駆けてゆく
あなたのやさしい指先を逃れて
遠く春の海が光る、
2012年3月15日木曜日
あした
あしたひらくドア、そして窓雪のごとこころに積もる言葉はありや
思い出すなつかしいうた冬の日のふいに飛び立つ鳥の似すがた
赤い実を痛みを噛んだくちびるを指でなぞれば遠い夕陽を
モネの庭春を夢見るゆくりなく花びら散って雪降るあした
やさしさを待っている森人は去り時移るとも花を抱く手よ
誰もいない窓に寄りそい見つめ合う青いサーカス、雨降る時間
まなざしで追いかけてゆく日々は海波濤は光る時の船出に
また出会う淋しさもとめ鳩は啼く空もこころもくるりまわって
その頬にながれる水は春の水口移し飲むあしたに満ちる
2012年2月23日木曜日
三月雨
三月雨、が降る
ほろほろとこぼれて少女は涙する
はちみつ色の瞳を濡らし鼻筋を濡らし
ああけれど溶けてしまうから唇をきゅっと結ぶ
盛り上がる雫は春の水 それとも冬の水
少女に言葉はいらない ただ心がかなしいの
いとしいの 何かがちくちくして
流れ去る川は春の水 それとも冬の水
今は気がつかなくても
三月雨、の匂い
あざやかな傘の向こう たとえば赤い花のように
振り向いた背中にいつの日の残像が重なる
あたたかなココア 指先で抱くチョコレート
いいえ、迷っただけなのです
つぶやいて何かが過ぎていってしまう
余韻を残し感触を残し思い出、
とさえ呼べるものを
少女のまなざしが揺れ、る
せつなくて涙はほろほろとこぼれる
やがて胸のおくの入り江にたどりつくような
三月雨、が降る
雨が降、る
2012年1月12日木曜日
おはなし、森の
たぶん、枯葉を踏んで
(小気味良いステップで)
たぶん、あなたの森を歩く
あなたの匂いがする森は
いつかどこかで歩いた道
頬を寄せると風が囁く
おはなしをしよう
ブランケットにくるまって
あるいは樹木の梢を透かし
仰ぎ見る青い空
おはなしをしよう
わたしだけが知っている花
あなたがいつか差し出した花を
こうして髪に飾って胸に抱いて
雪が降る 瞳に雪が降る
瞳のおくの隠された湖面に触れて
アイシテル アイシテル
つぶやいては溶ける真冬の花の
笑っているような
(泣いているような)
そして陽射しがこぼれて明るい
あなたのいとしい森を歩く、歩く
たぶん、わたしを待っている
いつかどこかに続いている道
2011年12月8日木曜日
Colors
こころさえ、雲を光を追い越してひるがえる風みずいろをよぶ
雨はやく言葉を奪い流れゆくたどる指先このうすみどり
風だけがよんでいる道二人ぼっち朽葉いろした秘密かぞえる
頬杖の窓辺にあんずの夕陽して奏でる音があればソラシド
白き朝、旅のこころが兆す夜遠くはなれてくちづけを君
あけがたの灰、夢の果て燃え上がるただ永遠は胸を焦がす火
すみれすみれ痣のようにか胸に咲くほのかに香るあこがれ今も
流れ星尾をひいてゆく思い出に銀の knife を沈める夜更け
手のひらに雪は降りしく消えてなおさびしさよりも赤く残るは
2011年11月10日木曜日
わたしの天使は
わたしの天使は飛び降りる
高い塔からまっさかさまに
天使は翼を広げたまま
わたしへ向かってほほえむだろう
雪が降るように真っ白に
翼は光る冬のはじめの陽射し
わたしのもとへ落ちてきて
わたしのこころへと落ちてきて
この窓をあけてある朝見た空のいろ
いつまでもまなうらに焼きついている
何度も何度もこの窓をあけて生きてゆく
何度も何度も思いはいつも同じでも
どうどうめぐりの河であっても
わたしはここに居る
ここに立って見上げている
ある朝目覚めるよろこび
あれは冬のはじめの陽射し
とても遠い遠い場所から時をこえて
あれは高い塔から降りきたるひかり
それを両手で受け止めるために
どうかわたしのもとへ落ちてきて
わたしのこころへと落ちてきて
わたしの天使は飛び降りる
この朝もその朝もめぐるひかり
わたしにやさしくほほえみながら
2011年10月12日水曜日
ねむり
おやすみ、あなたの黒髪にまだ青い葉をからませ
おやすみ、蔦は赤く、赤く血の色のよう
あなたの血のように赤く 私の血のように赤い
蔦を体に這わせ 木の葉の雨の降りしきるなか
そっと夢みる秋は遠い火の匂いがする
誰かが焚いた火を静かに守るように
あなたのなかで燃え続けるいのちが
いつしか心をあたためていつしか指も足先も睫毛も
焦がして けれどその火から目を逸らさずに
じっと見つめる森の彼方はこうして夜も昼も明るい
その火はあなたを強くするだろう こんなにも
その火はあなたをやさしくするだろう まるで
あなたの血のように赤く 私の血のように赤い
( 木の葉は降り積もる あなたの時間を満たすため )
おやすみ、あなたの黒髪はまだ若く花が似合うとしても
おやすみ、匂うように白い無垢を瞳のおくに宿して
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