2012年6月14日木曜日

プリズム



雨、雨、雨、やさしく閉じて透き通る春の惑いの Aquarium の


ふるえては芽生えるおもいこの胸のうすきガラスを風のララバイ


よんでいる心を奪い冬の鳥はるか Голос 遠くへどこか


空高くウインドベル鳴りやまず花揺れ惑う風の逃走


胸に寄す波打ち際のボトルメール言葉きらめきあふれだす海


舟はゆく水面(みなも)をすべる花明りまして逢瀬は夢の中まで


陽が射せば若葉したたり誘う窓おさない夢よまたよみがえる


空映すグラスに匂うこのあした水のようにか澄みゆくこころ


あれはひかりあれは虹、涙をふいて君のひとみにゆれるプリズム



2012年5月24日木曜日

青いサーカス



目覚めているのは心だけだろうか
雨が降っていた あなたのように
見知らぬ顔でドアをひらいて
涙で濡れたその頬に触れる


     息ができないの
     あなたでなければ、


 
雨の降る窓を、白い雫がたたくガラスの向こう
誰かの名前を呼び続けている
いとしいと恋しいと数えきれない言葉で


わたしの心はブランコのように揺れ惑う
あなたと恋しさのあいだを行ったり来たり
まるで言葉をおぼえて唇にのせてあそぶよう
あるいは水の中の淡いくちづけに似てくるしい


目覚めているのは心だけだろうか
もうひとりのあなた 手のひらを重ね合う
触れてはすぐに消えゆくぬくもりが
いつしか心を蝕んでゆく


    お願いはなさないで
      あなたの指を探し永遠の旅をするわたし、


そして見つめ合って夢見る、青いサーカス
雨が降っている 愛のように今も



2012年4月12日木曜日

海辺にて



潮騒がさわいでいる
白い手のひらを翻しながら


あなたが光を浴びて笑う海辺です
わたしがまぶしそうに昼の月を探す
あなたが風に吹かれてたたずむ海辺です
わたしが泣きだしそうに砂に貝を拾う
波にたわむれて歩く素足に
物問いたげな時が寄りそう


あなたは逃がさないように
あなたは時をしっかりつかまえた
確かな指先でそっと
わたしの心を握りしめる
すべてつかまえようとしては駄目
風のようにいつかすり抜けてしまうから


あなたは春のひとみを持ち
わたしを見つめる永遠の海辺です
こぼれるのは涙だけでいい
あまさないように抱きしめていようと
不器用なあなたを
臆病なわたしを


ほら潮騒がさわいでいる
白い手のひらを翻しながら


ひとみを逸らして駆けてゆく
あなたのやさしい指先を逃れて


遠く春の海が光る、


2012年3月15日木曜日

あした



あしたひらくドア、そして窓雪のごとこころに積もる言葉はありや


思い出すなつかしいうた冬の日のふいに飛び立つ鳥の似すがた


赤い実を痛みを噛んだくちびるを指でなぞれば遠い夕陽を


モネの庭春を夢見るゆくりなく花びら散って雪降るあした


やさしさを待っている森人は去り時移るとも花を抱く手よ


誰もいない窓に寄りそい見つめ合う青いサーカス、雨降る時間


まなざしで追いかけてゆく日々は海波濤は光る時の船出に


また出会う淋しさもとめ鳩は啼く空もこころもくるりまわって


その頬にながれる水は春の水口移し飲むあしたに満ちる



2012年2月23日木曜日

三月雨



三月雨、が降る
ほろほろとこぼれて少女は涙する
はちみつ色の瞳を濡らし鼻筋を濡らし
ああけれど溶けてしまうから唇をきゅっと結ぶ


盛り上がる雫は春の水 それとも冬の水
少女に言葉はいらない ただ心がかなしいの
いとしいの 何かがちくちくして
流れ去る川は春の水 それとも冬の水
今は気がつかなくても


三月雨、の匂い
あざやかな傘の向こう たとえば赤い花のように
振り向いた背中にいつの日の残像が重なる
あたたかなココア 指先で抱くチョコレート


いいえ、迷っただけなのです
つぶやいて何かが過ぎていってしまう
余韻を残し感触を残し思い出、
とさえ呼べるものを
少女のまなざしが揺れ、る


せつなくて涙はほろほろとこぼれる
やがて胸のおくの入り江にたどりつくような
三月雨、が降る
雨が降、る


2012年1月12日木曜日

おはなし、森の



たぶん、枯葉を踏んで
(小気味良いステップで)
たぶん、あなたの森を歩く


あなたの匂いがする森は
いつかどこかで歩いた道
頬を寄せると風が囁く


おはなしをしよう
ブランケットにくるまって
あるいは樹木の梢を透かし
仰ぎ見る青い空


おはなしをしよう
わたしだけが知っている花
あなたがいつか差し出した花を
こうして髪に飾って胸に抱いて


  雪が降る 瞳に雪が降る
  瞳のおくの隠された湖面に触れて
  アイシテル アイシテル
  つぶやいては溶ける真冬の花の


笑っているような
(泣いているような)
そして陽射しがこぼれて明るい


あなたのいとしい森を歩く、歩く
たぶん、わたしを待っている
いつかどこかに続いている道


2011年12月8日木曜日

Colors



こころさえ、雲を光を追い越してひるがえる風みずいろをよぶ


雨はやく言葉を奪い流れゆくたどる指先このうすみどり


風だけがよんでいる道二人ぼっち朽葉いろした秘密かぞえる


頬杖の窓辺にあんずの夕陽して奏でる音があればソラシド


白き朝、旅のこころが兆す夜遠くはなれてくちづけを君


あけがたの灰、夢の果て燃え上がるただ永遠は胸を焦がす火


すみれすみれ痣のようにか胸に咲くほのかに香るあこがれ今も


流れ星尾をひいてゆく思い出に銀の knife を沈める夜更け


手のひらに雪は降りしく消えてなおさびしさよりも赤く残るは