2010年8月11日水曜日
まぼろしの鳥
なきながら翼広げる影のあり雲間にもえる鳥のまぼろし
胸破り飛ぼうとするか呼子鳥光を背負いこだま待つ空
その薔薇を朱に染め抜いてわが小鳥囀る歌よ棘も忘れて
夏至の夜火を飼い馴らし見つめ合う見知らぬ森であなたとわたし
傘を捨て葉陰去りゆく思い出かためらいもせず雨も雫も
目を瞑り寄りそうほかなく二人して七夕夜に星を失い
雨のあと貝殻みたい黙り込むわたしの海はとても静かで
あの日から Adieu 囁くくちびるをまた過ぎてゆく夏草の駅
繰り返しくりかえしその頬骨にのばす指さき夏は過ぎゆく
2010年7月14日水曜日
海のあなた
あなたのくちびるから海がこぼれる
塩からい水が胸を濡らすから
わたしは溺れないように息をする
そっと息をする
空の高みが恋しいと指先をのばし
両手を広げてみるけれど
あなたの海が追いかけてきて
わたしの心は黄昏になる
そして星がまたひとつ燃えてしまう
胸に焼きつけられてしまう、から
どうか鴎になって飛んでいく前に
口移しで海をわたしにください
潮の香りが満ちてきて
小舟のように揺れるでしょう
どこまでも流されて
あなたがすべて海になるまで
海が残らずあなたになるまで
それからわたしは海を抱いて
わたしは海を呑みこんで
わたしは海を身ごもったまま
いいえ 本当は翼なんていらないのです
あなたの膝枕でこうして
いつか魚になって暗闇で眠るように
ずっとそうしていられたら、と
2010年6月9日水曜日
感触
うす青く空にひらいたドアの隙間から
輝く雲が覗いている
今も遠くはなれて君をおもう
見えない手のひらで
君をそっと抱き寄せる
(いつの日もよすがを探している)
(途方に暮れて)
あるいは意味などないにしても
鮮やかに芽吹いた緑の道を歩く
また一歩踏みしめる
残してきた春をいとおしむように
小指にほんの少し
草の汁を擦り込んで
(誰もが知っているなつかしさで)
(頬に触れる)
それはあの日の夢にも似ていた
いつか歩いた
(そして 星が輝く)
線路の匂いを嗅いだような気がして
そして振り返る
ためらいがちな 風
風よ その感触を知っている
2010年5月13日木曜日
つぶやく春を
風すこしあかるい街の片隅で Cover me またつぶやく春を
なみだ涙こぼれてもいい胸濡らしそこにたまれば空を映そう
雨の朝、こぼれる雫受けかねてただごめんねと呟いてみる
目隠しでくちづけされる水中花君と溺れる春の水槽
春の日をもとめる指に光あれ揺られて静か水仙香る
うすあおいガラスのような四月の日うそ鳥になりナキマネする日
あめ雨雨、とめどなく窓打つまひる辿る指さき痛みだけ知る
桜さくら、目の中に咲く夢に咲くいつかどこかで見たような春
遠き日を汽笛を風を寄せ返す海の響きを一人待つ道
2010年4月8日木曜日
四月の部屋
ある日突然窓を開けて
一羽の鳥が飛び立ってゆく
ある日それは静かに晴れた朝で
まるで船出のリボンをなびかせて
とても陽気に飛んでゆく空を
私の小指にはリボンが結ばれていて
ただ黙って眺めています
どこまでもどこまでも途切れる事のない
春はゆるいカーヴを描いて
おどけたように私の前に立ち現れる
こんにちは さようなら
またいずれかの朝を
ある日偶然手紙が届いて
お元気ですか、とたった一言
すでに予感していたその言葉を
私は反芻してみます根気強く
そして宛名のない封筒に涙のくちづけを
手のひらには小さな鍵がひとつある
まだ試してはいないのです
けれど私の胸の鍵穴にぴったり合うでしょう
一羽の鳥がふるえて蹲っている
ある日飛び立つ空を夢見ながら
こんにちは また明日
いつかいずれかの春に
一羽の鳥が飛び立ってゆく
ある日それは静かに晴れた朝で
まるで船出のリボンをなびかせて
とても陽気に飛んでゆく空を
私の小指にはリボンが結ばれていて
ただ黙って眺めています
どこまでもどこまでも途切れる事のない
春はゆるいカーヴを描いて
おどけたように私の前に立ち現れる
こんにちは さようなら
またいずれかの朝を
ある日偶然手紙が届いて
お元気ですか、とたった一言
すでに予感していたその言葉を
私は反芻してみます根気強く
そして宛名のない封筒に涙のくちづけを
手のひらには小さな鍵がひとつある
まだ試してはいないのです
けれど私の胸の鍵穴にぴったり合うでしょう
一羽の鳥がふるえて蹲っている
ある日飛び立つ空を夢見ながら
こんにちは また明日
いつかいずれかの春に
2010年3月11日木曜日
水を渡る
手をのばせばつかめそうで
指のあいだからこぼれ落ちてゆくもの
きらきらと きらきらと
それは光っている 踊っている
*
春の訪れ、光まぶしいこの水辺
まだ若い水草がさやさやと絡みつく
むきだしの脛まで冷たい水に浸りながら
わたしは歩いてゆく 風の方角へと
あなたはまるで切っても切れない絆のよう
水面を覗くと微笑みが見える
わたしをすべて見通すあの瞳で
そうしてあなたの中にわたしを見るだろう
わたしはわたしをそっと抱きしめる
あなたはわたし
*
水の上を名もない風が渡ってゆく
かすかなさざ波を立てながら彼方へ
歌をくちずさみながらまだ見ぬ彼方へ
手をのべるとあなたの呼ぶ声になる
わたしはわたしの声を知らない
わたしはあなた
*
耳を澄ませている
名もない心を抱いたまま
わたしもいつか風になってゆこう
透明な飛沫を上げながら
軽やかな足どりで 振り返りもせず
(きっと夢の中のように)
わたしは歩いてゆく
歩いてゆく
2009年12月10日木曜日
兆し
「笑っているの」と訊ねると
「笑っている」と応える
木の葉が風に舞って
肩越しに落ちかかるまひる
赤い葉っぱが嬉しくて
赤い色がかなしくて
その指先をもとめて手をのばすの
耳を澄ますと冬の匂いがほら
木立の向こうの空の彼方から
何かが生まれる前の
何もない静かな片頬のえくぼ
雲間からこぼれる ひかり ひかり
囁くような かすかな予兆
落ちてくる
わたしのもとに落ちてくる
いつか雪になるだろうか
あるかなきかの手触りで
それは思いになるだろうか
(誰か知らないだろうか)
「泣いているの」と訊ねると
「泣いている」と応える
凍えた指先をあたためたくて
そっと手のひらを重ねたくて
手をのばすの
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