2011年5月12日木曜日
Nocturne
風が走っている、この胸の中で
指先で奏でてゆく夜の心音
私を呼んでいる遠い声が
耳もとでこだまするたまゆら
そっと指をのばす、頬に触れたなら
夜明けのはじめの光が胸へと届く
あなたはみつけたの、私は
裸足のままで何も飾らず
ただ心の命ずるままの翼
暗闇でも恐れはしない
どこまでも駆けてゆく、踊るようなつま先で
ただひとつの星の輝きを頼りに
砂時計はまだ落ち続けている
壁時計の針はまだ動いている
すみれは匂っている、心のどこかで
やがて咲く日をやわらかに待ちながら
私のすみれよ
ひそかにもえているだろう
決して消えることのないその火よ
いとしいあなたを抱きしめる、夜も昼も
2011年4月13日水曜日
シーガル
――淋しい鳥の夢をみた、
あなたは一体誰ですか
シーガル 夢をみたの
お前の心臓はとても温かかった
わたしとあわせるとちょうどぴったりして
シーガル 夢だと知りながら
お前を強く抱き寄せた
なきながら目覚める朝、
見上げればもう春なのです
空はほんのりうす青く
飛行機雲が走り
なのに どうして
冬の瞳で遠くを見つめる
波濤は白く光っている
手招くように窓の向こう
指をのばすと
海までもう少しで手が届く
あなたは波のように寄せてくる
そして風の中で笑って振り向いた
大好きよ、
不器用な翼で風を切る
怖がらずにどうか
指先を水に濡らしたら
春はいつもそこで待っていてくれる
(だからなかないで いて ほしい)
シーガル 好きだといって
わたしも同じ言葉を口真似る
お前の噛んだくちびるはこんなにも熱い
夢だと知りながら シーガル
強く強く抱きしめた
2011年3月10日木曜日
冬の窓
冬の窓押し開けとおく空を見る瞳をのぞく異端者のごと
言葉いまだ伝えきれずくちびるを噛む、ただ強く血が通うよう
口寄せてささやく夢よ火と燃えてこころに満ちる雪は今しも
いたずらに Сердце моё 言葉だけが降り積もりふる冬の森にて
たましいの発芽する庭光浴びいつかどこかでめぐり逢う春
声とおく窓開け放ち飛び立てる渡り鳥より天使よりなお
赤い花あかいあかいと唇でころがしあそぶ恋のこころよ
ガラス片ふるわせ届くこの痛み文字に声音にくちづける朝
赤い花胸にこぼれてほろほろと痛く恋しく春を知っている
2011年2月10日木曜日
二月の星
その痩せた枝に忍び寄る風は音もなく
尖端に震えている明日 けれど確かな鼓動のように
その鼻筋に流れる涙はかなしみではなく
指をのばし拭い去ればただ あたたかな頬のぬくみ
僕は地に立って 愚直な二本の足を思っている
幼くつかもうとしている指を手を思っている
やがて歩き出す歩みが少しく軽くあるように
いつかくちずさんだメロディが僕を日々に運ぶ
遠くまで行こう
そして、という希望に熱に浮かされながら
二月の星よ、
瞳に宿る輝きを見つめ返したら
生きることの意味を知る
2011年1月13日木曜日
冬のオフィーリア
雪が降ってくるのです
音もなく 羽毛のように
やわらかく 花片のように
雪が降ってくるのです
見えない雪がすべてを包んで
私を埋めてゆく 冬の森
ごらんなさい
遠くから蹄が駆けてきて
立ち止まる影がある ふいに
木間から私を覗う冬の瞳よ
振り向くと誰もいない
ただ 雪だけが れいれいと
ねえ あなた
胸がくるしいの
思いだけが泡のように
立ちのぼる 立ちのぼって
空の果てから落ちてくる
あれは雪、雪です
(何も知らない
知ってはならないのです)
指がのびてきて頬に触れる
なぜそんなにやさしい手つきで
私は息もできず水に溺れ
抱き合ってくちづける冬の川
永遠は流れゆく 私のなかへ
私の口腔をつき破り
ねえ あなた あなた
木霊する、あなた
見えない雪を花のように飾る
このたえまないもの
(未来の夢を見る
あるいは過去へ遡るように)
雪が降ってくるのです
音もなく 羽毛のように
やわらかく 花片のように
雪が降ってくるのです
2010年12月9日木曜日
風のゆびさき
雲を問う風のゆびさき振り向いて頬をかすめる秋はひそかに
かなしみもよろこびもただ共にあれいとしいといってまだ青い林檎
まなざしに目を手のひらに指かさね日々を夢みる風さえつれて
我が愛は醸す美酒(うまさけ)あのひとの淋しさに似た十月の葡萄
黄葉ひとつ木もれ陽ひとつこぼれ落ち落葉溜りに光るひといろ
かなしみとよろこび生きるこのこころ代弁してよねえ赤い林檎
Esperanza 目を瞠いて駆け抜けるあるいは風のわたくしの馬
風、風、風、やわらかく啼け永遠の胸をひらいて君を旅する
行き先は知らなくていいガラス越しくちづけるゆめ揺られて冬へ
2010年11月11日木曜日
四季
春はあなたの名前を呼ぶ
小鳥のように 何度も何度も
春はひとつの真昼の花になって
光に咲きみだれ 狂おしく唇に口づける
*
夏は星を探して指をのばす
遠くからあなたの気配がやってくる
草むらの夜の中で手を握り合って
それから夏は永遠の鼓動で満たされる
*
秋は湖に浮かぶ一隻の小舟
ただひとつの言葉を耳もとで囁く
ただひとりのあなたの魂に触れ
静かに秋は風の夕べに抱(いだ)き続ける
*
冬はあなたの遠いまなざし
火が燃えている 決して消える事のない
冬は降りしきる雪の夜明けへ
瞳のおくにまだ見ぬ原野を探す旅に出る
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