2016年3月26日土曜日
夜明けのサティ
まなざしを夢に見るまで耳奥に遠い旋律夜明けのサティ
君だけを知っている記憶、冬風に燃える炎よいつか雪片
いつの日かめぐり来る日のグノシエンヌ海にピアノを置きざりにして
さすらいは窓を過ぎ行く頬杖の遠い汽笛を聞く夜昼の
雪の馬駆けてゆくごと抱きしめてジュトゥヴ君のうつくしい冬
いつまでも待っていると囁いた、木立のなかの静かなる月
まどろみの踊る爪先すべる指ジムノペディの春は近づく
雨音が叩く鍵盤胸にあそびやさしいことを独りかぞえる
おもいでに唇(くち)に含ます角砂糖誰も知らないノクチュルヌでも
2016年1月27日水曜日
雪が降る、一月に言葉は
きみは、ぼくの、愛の痛み
そして誰も知らない言葉だった
忘れたことのない言葉だった でももう遠い
舌の上に転がしても 口にすることさえ遙かで
雪が降る、雪が降る、ぼくのさびしい昼に
一月の太陽は輝き こうしてあたらしい夢に
熱情はまだ続いている 雪が降る、まるで
炎に似たセツナサデ 静かにそっと燃えている
振り返ってもいい 誰もいない冷たい道に
陶器の手触りだけが指先に残っている
触れたこともないのに この指に残るあざやかな
あれは、痛みだったろうか
ふいに割ったら指に突き刺さり 血が音もなくしたたるだけの
雪は降る、雪は降る、それとも忘れるというやさしさで
ぼくの、愛の痛み、きみは
言葉はもう思い出してはいけない 残された傷のまま
きみのなまえを ずっと願っていたかった
こぼれるのはただ雪、雪が降る、声もなくして
2015年11月27日金曜日
レティシア 青い花を探して
雨が降っている、と 長い髪を翻して駆けていった
レティシア 君を探して見知らぬ夢をさまよっている
あれは君だったの 夢のなかでそっとくちづけをかわした
誰もいない図書室で本をひらいて
陽だまりに読みふけった異国のものがたり
それとも微睡にふたりで夢に見た青い花だったろうか
空の色を映した花、どこかに咲くその花を
いつか想像してぼくたちは泉を飛び越えた
青い花、君の目のように、雨のように、
雨宿りをした木陰は君の心臓のように静かだったね
レティシア 君は素知らぬふりで目のなかに愛を飼う
かなしい時に君は泣かなくてうれしい時に涙をこぼす
小鳥のようにふるえてふたりは滴るしずくを見つめていた
きれいだと、一瞬時がとまった
あれは青い花だった?レティシア 君の目のなかに咲く
いいえ それはもう出会ったことさえない遠いむかし
遠いおはなし なのに
何遍も何遍も ほらこんなふうに愛しく
わたしのなかにあなたが降りそそぐ
雨のように、わたしを駆け抜けていった
レティシア 君を探して見知らぬ夢をさまよっている
あれは君だったの 夢のなかでそっと耳もとにささやいた
雨が降っている、と ぼくたちの目のなかにいつまでも
2015年10月21日水曜日
水辺の恋
花一輪、波紋を作るみずうみにたゆたう心七月の舟
摘み捨てて赤い花ばかり選んでは水辺の恋の淋しいあそび
白い鳥飛び立つ果てに海がある君の涙をもとめて遠く
いとしくて細い指さきのばしては摘み取る果実青い雨が降る
祭り前夜ツインソウルの見る夢に目覚めるあしたリボンをほどく
夏の終わり帽子を風に翻し君のカルナパルつばさひろげて
星月夜、見つめ返すは遠い窓カレイドスコープを覗くまなざし
ただ君に寄せてゆく波いたずらに朱をこぼしつつ秋草の岸
水の重さ愛する罪はウンディーネ君の背中に雨音を聴く
2015年9月15日火曜日
九月の少年
やがて九月、と声が耳もとをかすめてゆく
窓辺にはレースのカーテンがひるがえり
夏の少年が静かに微笑む
君はどこからか来て何も言わずに去って行った
知らない言葉だけがわたしをさみしくさせて
九月の慰めは夏の衰えを隠すように
少年はきらきらと水をしたたらせる
光りをくちびるに軽く含んでさえいる
うつくしい、といつか囁いた日々
愛されていたその瞳に空を映しているの
雲がゆっくりと流れてゆく
いいえ それは風だったろうか
君が溺れた、白い足を水草にからませて
音もなく流れてゆく わたしのこころを
この風のように
2015年7月22日水曜日
いつかわすれたうたが
いつかわすれたうたが
君のくちびるにのぼったら
一艘の舟がこぎだすだろう
夕陽の海へ 雲のかなたへ
(そして、振り返ることもなく)
いつかわすれたうたが
君のなみだにかわったら
一羽の鳥がとびたつだろう
夕陽の海へ 白い羽根をこぼして
(ひとひら、まぶしく落ちていった)
戻っておいで わたしのこころよ
波濤はひかりを増してゆく
それだけが痛みのように
戻っておいで かつて愛したものよ
目を閉じると
夕陽の海ははるかな君へとつづいている
(もえているのは あれは赤い花、
血のような赤い花、)
いつかとばなくなった鳥が
君のつばさにかわったら
いつかわすれたうたを
君はうたって
2015年6月24日水曜日
シークレットガーデン
さくらさくら、さよならだけを待っていた花びら散ってエデンの彼方
はつなつの門をくぐってアルカディア永遠の君へ薔薇へ旅する
夏草を裸足で踏んで逢いにゆくシークレットガーデン君は
くちびるに花びら咥え水の舟オフィーリアごっこ愛もたゆたう
森の奥眠れる塔に囚われてモリスの花柄夢の裾引く
愛だけに目覚める夜明けこの胸に秘める百合花ソロモンの雅歌
君の目のステンドグラスに雨が降る誰も青い花探す巡礼
くちびるにメメント・モリを囁いて花摘みあそぶ夢の中でも
ピルエット、わたしだけの裏庭で光と影が踊る永遠
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