2015年2月19日木曜日
白い馬(あるいは青い扉)
青い扉の向こうに
雪原が広がっている
かすかなノイズ
そのなかに紛れるように
一頭の白い馬
あれはあなたが放した淋しい夢だ
指で触れて
夢だと知りながら
その長い首を抱きしめる
あなたの淋しさに触れた時から
私はあなたに恋をした
雪原に燃える一条の火のように
誰もいない
私たち二人だけの世界
雪がほろほろと降るなかを
馬は私を背に乗せて駆けていった
どこまでも
私たちは燃え盛る炎だった
私たちは決して消えることのない
火だった
(あいしている あいしている)
いつか世界の果てにたどりつけるように
青い扉の向こうに
雪原が広がっていた
一頭の白い馬
まぼろしのようにまなざしを駆けていった
青い扉が静かに閉じて
私はひとり涙を流す
2015年1月21日水曜日
雪の瞳に映るのは
雪の瞳に映るのは
軽やかな窓
音もなく降る白い彼方の光
ひとつの塔に夜明けが訪れた
沈黙はただ安らぎであるかのように
いつか鳴る(それは予感めいた)鐘の響きを待っている
幾月も幾年も
雪の瞳に映るのは
冬枯れた薔薇
静かに眠る古い庭の蒼さ
やさしく触れた指を覚えている
それだけが夢のよすがであるかのように
めぐるあの春の音楽のような芽吹きを感じている
時を越えて
雪の瞳に映るのは
忘れられた本
誰もいない図書館の片隅
少女は振り向いて
何も言わずに微笑んだ
愛を知っている?その澄んだ目で語りかける
今はもう遠くなってしまった胸の炎に
雪の瞳に映るのは
空にのびた木立
もうすぐやって来るはずの影
少年は犬と戯れる
息もはずんで嬉しそうに
愛を知っている、そっと囁いて駆けていった
やがて白く埋めつくされるこの道の明日を
雪の瞳に映るのは
誰かの声
誰かの笑い声
2014年12月17日水曜日
風のような音楽
指先は頬をすべって触れてゆくやさしい風のような音楽
君の背に耳寄せて聴く森があるざわめき揺れる二人の愛も
黄昏に言葉を失い泣き濡れてモルフォ蝶飛ぶわたくしの夜
白い手にからまる翼いつか見た空の余白へ飛ぼうとしてなお
愛永遠(とわ)にあかいと言って突き刺さる湖面に落ちる君の一葉
風冷えの街海に似て冬の日へ帆を上げてゆく心の船の
めぐり逢い、木の間隠れの鹿のごと見つめ合えれば運命の旅
君の目の燃える雪野へ迷いたい淋しさゆるす鍵をさがして
涼やかな風それとも愛の言葉くちびるこぼれる歌を待ちつつ
2014年11月21日金曜日
十一月のきつね
あの子は障子に射す光を見ていた
目の窓に映るきらきらの光はなぜか心を
胸のおくをきゅんと痛くするの
涙が目の窓にもり上がって
よけいにかなしみというものが近づいてくる
かなしみはうつくしい?
それが何のかなしみかは知らず
ただ波打ち際に寄せる砂が濡れていくように
目の窓に雨が降っているの
光は変わらずこんなにもまぶしいのに
あの子はガラス戸に映る葉陰を見ていた
かすかに揺れる影は心にもちらちらと映って
胸のなかをなつかしさで満たしてくれる
いつか動いていた影 あれは何だったろう
幼なごころに感じていたまぼろし かすかなひみつ
さみしさはやさしい?
指で作ってみたかたちは障子に影を作る
光がまた射してくる ここに
目の窓に雨が降っていても
光は 影は静かに心を満たしてくれるの
やさしさはせつない?
こぼれる赤い葉 縁側に落ちて
ひとこえ啼いて わたしのきつね
2014年9月24日水曜日
ひとしずくの夜明け
ひとしずく、落ちて夜明けを目覚めゆく希(ねが)いを祈りを君の瞼に
白い鳥ふいに飛び立つ海岸(うみぎし)に遥かな時をひとを忘れる
また夏に帰ってゆく旅誰もいない駅にまどろむ麦藁帽子
まだ青い蕾を心に抱(いだ)いては日々は花びら風に散りゆく
永遠を波がさらって声もなくただ砂の城崩れる夕べ
遠い日へ列車は走るこだま、こだま、緑に濡れたおもいでのゆく
さびしさは身を揺する花草原にリュート爪弾く風の横顔
目のおくに河は流れるどこまでもあふれて遠く君の原野へ
灯台は極夜を守る波間より指さす方(かた)へ光はのびて
2014年8月26日火曜日
球体の海
透明なものがたりがあった
ひとあし、ふたあし、訪ねていくように
波が岸辺に打ち寄せて
貝殻を拾って、耳に寄せても
波音は聴こえない
わたしの耳には
あなたの潮騒ばかりが渦巻いている
いつしか砂が崩れて夕べになる
(あなたを思う事は永遠に等しい)
朝も昼も
星の届かない夜も
もしかあなたを忘れてしまっても、
遠くで舟の帆がきらりとひらめく
足もとで白い鳥ばかりが飛び立つ
囁いた言葉が胸のおくに反射する
昨日から
明日から
逃れるように
2014年7月23日水曜日
眠れぬ森の
(雫がすべってはこぼれてゆく
夜だ わたしだけの夜がはじまる)
眠れぬ森の月が落ちて神話になった
満ちては欠けて欠けては満ちてゆくもの
星はまばたきのなかに流れてゆく
(あなたの胸のうちにわたしはそっとくちづける)
夜は眠れぬ森につれづれ語るものがたり
姿を変えて夢のいのちを変容を、記憶を生きる
わたしは何になるだろう たとえば夜露
たとえばあなたの頬に流れる涙
こぼれてもうかえらない
こぼれてかえらない虹 遠くあふれてきらめく
(夜の果てではいつもひとりであるように)
あなたは知っているだろうか たとえば風
たとえばやさしくその指先に触れる花
愛のように ただ静かに触れてゆくもの
愛のように 何ももとめずに
(雫がすべってはこぼれてゆく
見つめるようにまなざしの向こうで
夜が瓦解して やがて)
眠れぬ森の青い鳥をそっと放そう
あなたが道に迷ったらしるべになるように
私は何になるだろう たとえば朝露
たとえばあなたの見ていた夢、その残り香
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