2023年10月17日火曜日

ペパーミントキャンディー/三月うさぎ


 






「ペパーミントキャンディー」

舌先でかるく転がすペパーミント君の涙の訳はきかない

雨が降るだから今すぐあいたくて水玉模様の傘さしてゆく

まぶた沁むほんの少しのメントールただ甘いだけの恋はいらない

指先がまだつめたくて君思うみずいろの雨春浅いあめ

傘の中交わすくちづけポケットにそっとしのばすキャンディーひとつ


「三月うさぎ」

春の陽はひとりの心を置きざりに雲の流れのさみしい空に

たわいないふとした言葉にはしゃぎ合う風を摘む指花を折るゆび

春の日は濃いめのお茶にまっさらなミルクをこぼし光射す午後

はなしてよ離さないでよただ二人さめない夢に恋におちても

春すべてやさしくなって赤い目に三月うさぎ涙をながす


2023年10月16日月曜日

水晶夜/ドア


 






「水晶夜」

頰杖でまどろむ窓辺何もかも透き通ってゆく水晶夜にて

草のゆめ針の夢またむらさきの時のうつろい夜は傾き

果敢はかないと花びら時に散るならば肩にかいなにせめてくちづけ

また一人グラスにそそぐ檸檬水明日になればすこし潤う

窓むこう眼差しそらす違う顔夜のひとみはまばたきもせず


「ドア」

朝ひらく回転扉通り抜け落ち葉の夕べ振り向くデジャヴ

吐息にてくもる心に口付けるあいまいすべてガラス越しの日

今すぐに会いたい気持ち放つ午後エレベーターを降りて屋上

誰もいない踊り場にいて借りた本七ページ目に名前をしるす

ドアひらく凍える指に触れたなら冬の瞳で見つめかえして


2023年10月15日日曜日

とおい歌/押入の夕闇


 





「とおい歌」

いつの日の窓辺に聞いたとおい歌盗んで消えるおもいでの耳

汽笛すぎ残されゆくは草鉄路待つだけの駅呼ぶだけの風

なぐさめを知るか口笛おおぞらに心を放ちくかくちぶえ

知らぬ部屋みしらぬ二人浅いキスギタア爪弾く黄昏のゆび

ハメルンの笛吹き男のとおい歌子供にもどってついていきたく


「押入の夕闇」

押入に夕闇はつと隠れてる「もういいかい」と「まあだだよ」とで

庭先にブランコだけがゆれていて昼のサイレン明日はとおく

陽のひかり障子にさせば心痛み指でつくるは淋しいきつね

すりむいた膝をゆるして泣き虫は一人でいてひとり忘れる

足裏でたしかめているこの夕べささやき過ぎる風は「明日」と

2023年10月14日土曜日

海の画帳


 






白い雲青らむ渚描いてく心の色は自由自在


砂浜に続く足あと追いかける麦わら帽子風のステップ


海の色変えてゆくまに一瞬の楽章を見る波濤はとうはひかり


海鳥うみどりの風切るつばさ高く飛べ心をつれてはるか遠くへ


沖を行くましろき船に問いかける行き先はただ鳥のふるさと


貝殻を耳に押しあて海を聴く胸に満ち潮淋しく深く


海の色探し疲れて潮風にめくられてゆく心の画帳



2023年10月13日金曜日

雨をみていた/雨、また雨


 






「雨をみていた」

透き通るガラスの惑い指でなぞり雨をみていた心おちいて

白い足走り去る朝つかのまの雨をみていた虹を待つまま

紫陽花の肌の静けさこぼれゆく雨をみていたぬるい午睡は

人いつか帰り支度の傘の波雨をみていた夕べは遠く

街はいま水音流る夜の底雨をみていた雨を知っていた


「雨、また雨」

寝苦しく目覚めた朝に夢うつつ激しく窓をたたくたたく雨

雨音を思えば雨が支配する人を思えば雨の一日

アンブレラ覗いた瞳くぎづけるすれ違いざま舗道のひとり

忘れるなら心ひらかず持っていてレインコートを着て会いにゆく

とめどない思いの檻にとらわれるたたく窓枠雨、また雨の


2023年10月12日木曜日

春ショパン/春の日


 






「春ショパン」

やるせなさ瞳は映すとおい窓夜は流れて青いノクターン

駆けてゆく白い足首白い影心に落ちる雨だれを聞く

思い出す人の涙を黙りこむ肩の重みを別れのゆうべ

頰よせる日々はバラードなつかしい指先でるいつかの詩集

つきはなし逃げてゆく春残されてひとり目覚める葬送の朝


「春の日」

君の目が欲しいんだただ春の日にやさしさなんて知らなくていい

叩くたたく野に打つ雨に踏みにじる花のとむらいこのぴあのソロ

かなしみは街角で吹くシャボン玉それとも一人つぶす苺の

たそがれの音楽室に忍び込みセロの弦切る盲目は早く

破り捨てやぶりすてまた書く手紙うつしみを乞う春の日はゆく


2023年10月11日水曜日

あおい檸檬/あかい花


 






「あおい檸檬れもん

かなしくはないと云ってよあおい檸檬軽く齧ったあなたとわたし

黒髪が胸にまつわり痛くってあなたを睨むそろえ前髪

爪を噛むしぐさを憎むいっそすぐ指をつかんではなさない恋

焦がされて重ねては塗る紅のいろくちびる許す夜は慰め

あおい檸檬さびしさ薫る手のひらになじんだ重みまたもてあます


「あかい花」

あかい花、血のにじみただかなしくて唇ぬすみ逃げる夕焼け

あかい花、きれいだねってつぶやいた水に落ちればいつか見た夢

あかい花、口にしたなら消えてゆくならば塞いで意味など知らず

あかい花、夕べのように燃えている焼け焦げてなおこころをいだ

あかい花、いついつまでもと願ったいつになったら忘れられる恋