2023年10月23日月曜日

あこがれ/五羽の鳥


 






「あこがれ」

あこがれは一番星の良きひかりいかにはかなく夜が来ようと

人は行くランボオの詩を胸にだき人いきれへと振り返りもせず

鳥は飛ぶただ啼きながらひたすらに空になるまで青になるまで

船はつ潮風を帆にはらませて水脈みおひいてゆく南をめざし

名も知れぬ草の実ひとつほどの夢指でつぶせば染みるその色


「五羽の鳥」

ふいにまた一羽の鳥が飛び立ちて束の間の夢心をよぎる

街角でつがいの鳥の歌を聞くアナタナシデハ/アナタナシデモ

啼くな鳥涙ながすなうつむくな唇かんで三羽の鳥よ

思い出は四羽の鳥の空の行くつらなりながら雲の切れ間に

五羽の鳥電線にいて押し黙る風は北向き蒼穹はるか


2023年10月22日日曜日

さよならの砂/ピクニック


 






「さよならの砂」

サンダルの指さき焼いて終わる夏さわぐ波音遠くに聞いて

誰もいないパラソル揺れて砂浜に思い出さえも続くスナップ

飲み干したカルピスウォーター氷だけ余るグラスに雲はながれる

脱ぎ捨てたサマードレスの消えぬ染み心ににじむ水玉模様

テーブルに白い貝殻残すだけ部屋にちらばるさよならの砂


「ピクニック」

木もれ陽のランチョンマット広げては鳥がついばむ野のピクニック

朝どりのトマトはさくり陽を浴びてただ召し上がれめしあがれ今

ふかふかの森は日向の匂いするサンドウィッチに風はさむ午後

唇をま赤く染めて笑いあう苺つぶれて昼の静けさ

野の隅に忘れ物ありいつの日の種はこぼれてそと実を結ぶ


2023年10月21日土曜日

六花(りっか)


 






君を知るはじめての雪くちびるに触れるまもなく溶けゆく微熱


汽笛過ぎたどる鼓膜に降りかかる細雪ささめゆきかな哀しみかすか


綿雪がいつか隠してくれるまで忘れてもみる赤いロンリネス


白い檻帰り道さえ見失う目にも口にも夢にも粉雪


はだれ雪道にひっそり消え残り何かうれしく何かさびしく


ものも言わず寄りそうだけの思い出に熱い花びら散らせ淡雪あわゆき



2023年10月20日金曜日

たそがれ/コランダム


 






「たそがれ」

夕影がひたひた伸びて心ぼそい手の鳴るほうへ手の鳴るかた

最後まで残るこわさに二人して遊びなかばでげるたそがれ

終わらない遊戯にも似る夕暮はかごめかごめのその輪のなかに

泣いた鬼電信柱の暗がりに白い手だけが招くやさしみ

やるせなく空き缶ばかりころがって角を消えゆくたそがれの影


「コランダム」

貝殻のように丸まりうずくまり鉱石さがすイギリス海岸

行き先のない汽車に乗りひた走るどこまで行っても通過駅のみ

夜すでに企み隠すコランダム見知らぬ青にやがて来る星

砂粒のこぼれ広がる小宇宙指のあいだをさらさらさらと

僕たちはインクルージョン何もかもひとつになって銀河に光る


2023年10月19日木曜日

沈黙と蝶/永遠中毒


 






「沈黙と蝶」

夏の野は沈黙の果てみつめあうだけのくちづけ唇に蝶

じっとして壊れないよう忍び寄る白い羽には光だけ射し

言葉などもはやいらない君をつれ夏の丘へと逃げる細足

けれどもう絡む深草指先の蝶を逃がして倒れこむ道

愛というその白日夢うなだれる虫取り網の少年われは


「永遠中毒」

少女服脱ぎ捨て君は駆けぬける街角、インクの乾かない朝

追いかけて非常口ドア雨上がり無邪気な青にだまされてゆく

水にうつる言葉も意味もないグラス残り香だけの君のストック

永遠は知らない言葉軽薄な口もと濡らし走り去る雨

白い蝶真夜中すぎの水槽に閉じこめてみた僕だけの恋


2023年10月18日水曜日

星のなまえ/夏至祭


 






「星のなまえ」

サーチライト君のまなざし射抜かれて私の愛も浮かび来る海

夜海の波うち際に刻まれる星のなまえを覚えてねむる

永遠の星を探してしずむ船嵐の海に記憶もろとも

また今宵夢が輝き消えてゆく私もいつか堕ちて流星

ひそやかな光でもいいこの胸に息づく星を秘する黄昏

「夏至祭」

燃えながら灰のなかから生まれる鳥その目にうつる火祭りの夜

名前なき舟ならばただ漂うか海に溺れて星があかるい

不確かさそれのみ満ちる雨のごとうすい胸にも染みる薔薇こう

六月の火よ焼き尽くせこのこころ真昼は今も熱を保って

草いきれ、が絡みついてはなれない夕べの意味を奥処おくかに刻む


2023年10月17日火曜日

ペパーミントキャンディー/三月うさぎ


 






「ペパーミントキャンディー」

舌先でかるく転がすペパーミント君の涙の訳はきかない

雨が降るだから今すぐあいたくて水玉模様の傘さしてゆく

まぶた沁むほんの少しのメントールただ甘いだけの恋はいらない

指先がまだつめたくて君思うみずいろの雨春浅いあめ

傘の中交わすくちづけポケットにそっとしのばすキャンディーひとつ


「三月うさぎ」

春の陽はひとりの心を置きざりに雲の流れのさみしい空に

たわいないふとした言葉にはしゃぎ合う風を摘む指花を折るゆび

春の日は濃いめのお茶にまっさらなミルクをこぼし光射す午後

はなしてよ離さないでよただ二人さめない夢に恋におちても

春すべてやさしくなって赤い目に三月うさぎ涙をながす